儚き夢 V
水牛ダンス
つい先日、僕はとんでもない病気だということを知らされた。しかも、結構マジで死ぬかもしれない病気だ。
「急性硬膜外血腫」
まあ簡単に言えば、脳内の血管に傷が付いて、そこから出血してしまう病気である。つまり、あの時僕が倒れたのはストレスとかからの頭痛とかではなく、脳内の出血によるもの、意識障害とでも言えば分かるだろうか。
思いの外病状は進んでいたという訳だ。……勿論良くない方向に、だが。そんな
「先生」
「何だ」
「僕は死にますか?」
「このままだと十中八九間違いなく死ぬな。こればっかりは断言出来る」
「そうですか」
「何か…堂々としてるな」
「そう見えます?」
「ああ。正直、今の君を見る限り、とてもじゃないが重病を患っているとは思えない」
「ハハハ…これでも内心、割とショックを受けてたりするんですよ?」
「そうかい……じゃあ聞こう。君はどうしたい?」
「どうしたい…ですか?」
「手術をして助かりたいか? 何もせずにこのまま死にたいか?」
「そうですね……」
僕からすれば、ハッキリ言ってどっちでも構わなかった。今すぐ死ぬことになっても、手術が上手くいって生き延びることが出来ても。こんなことを口に出したら、色んな人から怒られそうだから当然言わないけれど。
「君自身が生きたい、死にたくないと言うなら、私は手術を受けることをオススメする。幸い、脳の状態は、手術さえすればまだ助かる段階ではあるんだ。だが……君がそれを望まないなら、私は何も出来ない。本当は全身を亀甲縛りにして、無理やりにでも手術を受けさせたい。だってそれさえすれば、君は助かるのだから」
「亀甲縛りなんてワードを出すには、まだ時間帯が早い気がしますよ」
なかなかに熱血で、なかなかに変態な先生だ。でもまあ…これほどまでに熱く気持ちを伝えられてしまってはなあ…断る理由も見つからない。
「少し冷静さを欠いてしまったな、申し訳ない。返事は今月中であればいつでも構わない、気持ちが固まり次第、私に言ってくれ」
「じゃあ先生、今日今すぐこれから直後に素早く瞬間即座に即々々々ここで返事を言わせてもらいますよ」
「そうかい。君のことだから、おっかなびっくり未来へ羽ばたき先へ先へと先延ばしにするのかと思ったよ」
「自分の体ですからね、グダグダと考えても仕方ないですし」
「なら言ってくれ。どうする?」
「受けますよ? 勿論」
「…分かった。ではそのように手筈を整えておくよ」
「宜しくお願いします」
そんなこんなで、深刻そうに思えた僕の病気は、ひとまず安心出来る状態にまでは持ってこれたようだ。まあ…手術まで気長に待ちますか。
突然だが、私こと綺堂歩美には好きな人がいる。病室付近で倒れていた私を助けてくれた人、光田皇輝という人が、私は好きだ。
私はよく彼の病室へと足を運んだ。何故なら、私の命は残り僅かしかないからだ。心臓の状態は一向に良くならず、むしろ悪化の一途を辿っている。主治医からは、移植手術しか治す方法はないと言われた。それはつまり、遠まわしに余命宣告をされているようなものである。まあ、だからといって私自身がどうこう出来るという訳でもないのだが。
そんな訳で、私は今日も光田さんの部屋を訪れている。
「光田さん、入りますよ?」
私がそう声をかけて確認すると、中からやる気の無さそうな、加えてのんびりとしてそうな声が聞こえてきた。
「こんにちは、光田さん」
「珍しいね」
「何がですか?」
「こんなにも静かに人の病室に入って来るのが」
「失礼だなあ、そんなに私って騒がしいですか?」
「ハッキリ言って、かなり騒がしいと思うよ。それこそ衝撃波で地球にひびが入るくらい」
「私の声をジャイ○ンの歌声と一緒にしないで下さい!」
全くもって失礼な話ですよ、ホントに。
「さて、珍しく…というより初めてじゃないかな、綺堂さんがこんなにも落ち着いているのは」
「うう…酷い」
「で? 今日はどうしたんだ?」
「どうもしませんよ。いつもと同じです」
そう、いつもこんな感じだ。特にこれといって、何か用事がある訳でもない、ただ単に私が一方的に、光田さんに会いに来ているだけ。それだけで、私の心は満たされる。
ろくに学生時代というものを経験していない私にとって、あれこれとお喋りをするのは、殆ど無かった習慣なのだ。こうやって誰かに話を聞いてもらえることが、堪らなく嬉しかったりする。
「そういえば光田さん」
「どうしたの?」
「一つお聞きしたいことがあるのですが」
「今日は本当に珍しいね、こうやって僕にわざわざ許可を取りにくるだなんて。明日はみぞれでも降るかもしれないな」
「何で行儀良くしているだけなのに、そこまで言われなくちゃいけないんですかっ!」
「ごめんごめん。…で? 何を聞きたいの?」
おっと危ない、忘れるところだった。
私がここへ通うようになってから、日を追うごとに聞きたいと考えていたこと、それは。
「光田さんはどうしてここにいるんですか?」
「病気だから」
即答された。
「いや、そうじゃなくてですね……何の病気でここに入院しているのかってことです」
「…脳の病気だ」
「脳?」
「ああ」
予想を大きく上回る答えだった。しかも脳の病気というとかなりヤバい状態なのではないのか、と思う。もっとも、私の場合は本当にヤバい状態にある訳だが。
閑話休題(それはさておき)。
「脳の病気って……大丈夫なんですか?」
「大丈夫みたい。手術さえすれば」
…良かった。助からない病気という訳ではないようだ。
「じゃあ、近々退院する訳ですね」
「…そうなるかな」
「なーんだ。寂しくなるなあ」
「そう? あ、せっかくだから僕も一つ聞いて良いかな?」
「何ですか?」
「綺堂さんはどうしてここにいるんだい?」
「病気だか」
「何の病気で入院しているの?」
……遮られた。
「私の病気ですか?」
まあ…やっぱり聞いてくるよね。あんまり言いたくないのが本音だけど。
「心臓病です」
口に出してみてなんだけど、声が震えていなかったかどうか心配になった。ここで怯えた様子を見せてしまうと、光田さんにも悪い気がしてくる。
「心臓病か…それは治るの?」
「ええ、治りますよ」
心臓を移植したらだけど。
「手術で?」
「はい」
段々と声が震えてくる。目の焦点も定めにくくなってくる。光田さんに全てを見透かされているような気がして、何だか怖くなってくる。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、光田さんは更につっこんでくる。
「手術はいつ頃?」
「ええっと……い、いつだったかなあ。光田さんと同じくらいだったと思いますけど」
「……綺堂さん」
「な、何?」
「どうして嘘つくの?」
「……」
思わず声が出なくなった。いつもみたいに、軽い口調で誤魔化したいのに、口が動かない。
「知ってる? 僕と綺堂さんの主治医って一緒の人なんだよ?」
「……え?」
「主治医である下野悠一さんは、この病院に一人しかいない。それはつまり、同じ時期に手術を施すなんてことは出来ないんだよ。だって体が一つしかないのに、複数の患者に手術をするなんて、出来る筈がない」
私と光田さんの主治医が一緒だということを今初めて知った。それと同時に私は有り得ない嘘をついてしまった。
そして、何だか推理小説に出てくる犯人になったような気持ちになってきた。自分が作った矛盾をズバズバと言い当てられて、追い詰められていく感じが。
「…ごめん。綺堂さんにだって、触れられたくないこともあるよね。余計なことをしてしまった、ごめん。この話は忘れて」
知らず知らずの内に、私は泣きそうな表情になっていたのだろう。急に光田さんは頭を下げて謝ってきた。自分からこんな話題を振っておきながら、なにを泣きそうになっているんだ、情けない。謝らなければいけないのは、むしろ私の方じゃないか。
「本当にごめん。聞かれたくないことなのに、問い詰めるようなことしちゃって」
尚も光田さんは謝ってくる。違う! 悪いのは私だ! 光田さんは何も悪くない! そう言いたいのに、なかなか声が出てくれない。パクパクと魚みたいに口が動いているだけだ。
「…光田さんは悪くありません」
何とか出せた声は、絞り出すような感じだった。
「ちゃんと…ちゃんと話しますから……だから、謝らないで下さい」
「別に無理に話さなくても良いんだよ?」
「無理なんかしてません!」
「……」
「私が最初から素直に話せば良かったんです。それなのに……私ったら、変に隠そうとしたりして…全部話しますから、聞いてくれますか?」
「分かった。でも、辛くなったりしたら、止めて良いからね」
やっぱり光田さんは優しいなあ。でもだからこそ、ちゃんと私自身のことを聞いてもらわないと。いつまでもこのままの状態でいられる訳じゃないんだから。
自分の中で気持ちが固まる。しっかりと光田さんを見据えながら、私はゆっくりと話し始めた。
「……という訳です。実はこうやって出歩くのも、本当は良くないんです」
彼女から聞かされた彼女自身のこと。それは僕自身にとっても辛い内容だった。
「今まで隠していてごめんなさい。黙ったままでいるのは良くないとは思っていたんですけど……」
「いや…こっちこそ話してくれてありがとう。そして、辛いことを話させてしまってごめん」
普段からこんなにも明るく接してくる彼女が、僕以上にとんでもない病気に冒されていて、それでもこうやって僕に会いにきてくれて。本当はそれどころじゃないのに。
どうして彼女にこんな苦難を味わわせるんだ。一体、彼女が何をしたと言うんだ。もう十分過ぎるくらいの苦難は味わった筈だ、いい加減解放してやっても良いじゃないか。
「光田さん……?」
「……何だい?」
「…泣いてるの?」
「……泣いてる…のかもな」
指摘されて、初めて自分が泣いているのに気が付いた。大の男が、みっともなくボロボロと涙を流している。自覚した途端、もう涙は止まらなかった。
「何で…光田さんが泣くんですか」
「何でだろうね…マジで。ホント…情けない。涙が止まらないんだ」
こんなにも本気で泣いたのは、いつ振りだろうか。昔から感情が乏しいとはよく言われてきたので、ヘタすれば十年以上泣いてなかったかもしれない。
それと同時に、改めて彼女に対する気持ちに気付かされた。やっぱり僕は綺堂さんのことが好きなんだ。だから僕は、こんなにも情けなくなって、悔しくて、どうにかしてあげたくて、でもどうすること出来なくて。
「泣かないで下さいよ……私まで泣きたくなってくるじゃないですか…」
「ごめん…何かもう、色んな気持ちがグチャグチャになっちゃってさ……」
「確かにこのままいけば、私はいなくなります。でも助かる道が残されていない訳じゃないんですよ?」
それはそうだ。でも、心臓の移植というのは、なかなか合わないものなのだ。毎年そういった移植の希望を出す人は三百人くらいいる。しかし、その中から無事に移植出来た人は、全体の二十パーセントにも満たないのだ。決して恵まれた環境にある訳じゃない。死ぬ確率の方が圧倒的に高いのだ。
「そんな顔しないで下さい、光田さんが気に病むことじゃないです。心配してくれるのは嬉しいですけど、これは光田さんのせいでも何でもないんですから」
「……うん、そうだね」
……そんな悲しいこと言わないでくれよ。気に病むに決まってるじゃないか……。
「さて! 長々と付き合わせてしまってすみません。暗い話はここまでにしておきましょう」
それからは、いつも通り彼女があれこれと話してくれた。まるでさっきまでの病気の話が嘘のように。こんなことだから、僕は全く気付くことが出来なかったのかもしれない。
この日、僕の中で一つやるべきことが決まった。
「失礼するよ」
病室に入ってきたのは下野先生だった。
「体調はどうだい?」
「大丈夫ですよ」
「そうかい、それは良かった」
「どうかしましたか?」
「ああ。体調が万全なら、すぐにでも手術を受けられるからな」
「そんなすぐに出来るものなんですか?」
「案外出来るものなんだよ。さて、君さえ良ければ近日中に手術を施せるが……どうする?」
「実はそのことでご相談があります」
「相談? どうしたんだ?」
「僕の臓器に異常がないか確かめていただけませんか?」
「臓器……かい?」
「はい」
「別に構わないが…どうしてまた」
「これはまだ誰にも言っていないことなんですけど……聞いていただけますか?」
「どうやら真剣な話の内容のようだね。良いよ、話せる範囲で話してみなさい」
「ありがとうございます」
ある意味ここは正念場だ。先生を納得させないと、僕の計画は意味を成さなくなる。
ゆっくりと、静かに僕は話し始めた。
「本当にそれで良いのかい?」
「構いません」
先生は僕が話している間、一言も反論せずに聞き入ってくれた。話が終わって、初めて先生が意見と呼べるものを話し始めた。
「……一医師としては、全力で引き留めたいところだね。私個人としては、君のしようとしていることは分からなくはない。そしてこれは、必ずご両親や、君の周りにいる人々に伝えるべきだ。その上で了承が得られるのであれば、私も君の言うことに従おう。でももし反対があった場合、従うことは出来ない。それでも構わないと言うなら、私に手術を任せてくれたまえ」
「構いません。両親や友人達には、僕の口から直接話します」
「そうか、分かった。話が上手く纏まったら、また私に言ってくれ」
「はい」
「……それにしても、君がここまでの決断を下すとは…正直驚きだよ」
「それは僕自身が一番驚いていますよ」
やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に。そんな考え方を持った僕が、まさかこんなことをすることになるなんて……思いも寄らなかった。
次の日、僕は両親を病室に呼んだ。勿論昨日のことを話す為だ。
「急にどうしたの? 話したいことがあるだなんて」
「うん、ちょっとね」
ふぅ、と心の中で深呼吸をする。流石にちょっとばかし緊張してきたなあ。
「僕さ、臓器提供しようと思うんだ」
「…え?」
両親の口からは、ほんの少し上擦った声が聞こえた。まあ無理もないか…自分の子どもが急にこんなこと言い出すんだし。
「お前…自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「当たり前じゃん」
「……理由を教えてくれるかしら」
「理由? 簡単だよ。助けたい人がいるんだ」
「それは、お前が臓器提供しなければ助けられないのか? そもそもその相手に、お前の心臓は適合するのか?」
「するよ。この前調べてもらった。まあ、厳密に言えば、僕でなくても良いけどさ」
「そうか……」
大きく溜め息をついて、深く考える父さん。不安げな表情で、視線を彷徨わせている母さん。
「僕さ、基本的に何かをしたいとかって言わなかったと思うんだ。したいことなんてあまり無かったしさ。でも、初めて自分の中で、ちゃんとしたいことっていうのが見つかったんだ。まあそれがこんな形になっちゃった訳だけど。だからさ、僕の最後のワガママってやつを聞いてくれないかな?」
……これで納得してくれなかったら、諦めるしかない。
「……確かに初めてだな」
「えっ?」
「お前がきちんと自分の意思で行動したのが、だ」
「…そうね。ここまでしっかりと、あなたの言葉で伝えられたのは、初めてかもしれないわね」
「皇輝」
「うん?」
「……しっかりやってこい。お前が決めたこと、悔いの残らないようにな」
「本当は怒鳴りたいくらいだけど、あなたがそこまで考え抜いたことなら、私達はもう何も言わないわ」
両親は、涙ぐみながらも僕の話に納得してくれた。それと同時に、また大泣きしそうになった。
「父さん、母さん、ありがとう」
それから数日に渡って、親族や友人達にも事情を説明した。中には怒鳴り散らしてきた人や、ぶん殴ってきた人、涙を流してくれた人もいた。
こういう場面になって、僕は沢山の人に支えられて、ここまでやってこれたと実感させられた。
「先生、今お時間宜しいですか?」
そして、先生に依頼する時期となった。
「やあ、手術のことかい?」
「はい」
「そうかい、ちょうど時間が空いている。そこに座りなさい」
「失礼します」
「さて…私のところに来るということは、みんなに挨拶が済んだという訳だな」
「はい、済みました」
「分かった。じゃあ後は手術だけだな」
「はい、宜しくお願いします」
いよいよか…。何かあっという間だった気がするなあ。
「あっ、光田さん」
「綺堂さん、どうしたの?」
病室に戻ってくると、部屋の前に綺堂さんが待っていた。
「こんにちは。今日はお知らせがあって来ました」
「へぇ、どんなの?」
「私、移植手術を受けられることになりました」
「本当!? じゃあこれで心臓病が治るんだね」
「はいっ!」
うん、良かった。これで彼女は漸く解放される。
「まあ、中に入りなよ」
「珍しい、光田さんが招き入れてくれた」
「お帰りはあちらで」
「嘘です嘘です」
いつも通り、僕は彼女と過ごした。
いつも通り、楽しかった。
手術は明日。今日が彼女と過ごす、最後の日。
自分の担当である子に、こういったことをするのは本当に辛かった。でも、この手紙を渡さないと、彼の気持ちを無駄にしてしまう。彼女は……これを知った時どうなるのだろうか。
複雑な気持ちの中、私は彼女…綺堂歩美さんの病室を訪ねた。
「失礼するよ」
そう言って入ってきたのは、私の主治医の下野先生だった。
「どうしたんですか?」
「君に話があってね」
何やら辛そうな、悲しそうな表情をしている。……もしかして心臓が適合しなかったのだろうか。
「これを読んでほしい」
渡されたのは一通の手紙だった。誰からだろうと思って、封筒を見ると、光田さんからだった。
手紙を読み終わった私は、一目散に駆け出した。心臓に負担がかかるとか関係ない。
私は、まだあなたと話がしたい。
私は、まだあなたに感謝を述べていない。
私は、まだあなたに謝罪をしていない。
私は……。
まだあなたに【好き】という気持ちを伝えていない。
息が切れて、胸が苦しくなって、涙が流れて、頭の中がグチャグチャになっても、走るのだけは止めなかった。
綺堂歩美様
この手紙を読んでいる頃、僕はもういません。何も言わず、あなたの前からいなくなってしまったことを、お許しください。ここにどうしても伝えておきたいことを書き残しておくので、気が向いたら読んでみて下さい。
心臓が治ったことで、あなたにはまだ多くの可能性が残されていると思われます。自分でしっかりと考え、決めて行動しないと、失敗した時に納得が出来ません。納得が出来ていたなら後悔することもないでしょう。僕にはそれが沢山ありました。どうしてこうしなかったのだろう、もっとこうすれば良かった、などと思ってもどうにもなりません。
あなたは周りを楽しくさせ、気遣いが出来る人だと思います。自分がこれだという目標を見つけ、精一杯努力すれば、それは十分叶えられます。
僕はそんなあなたに出会えたからこそ、こうやって自分の意思で、あなたに僕の儚き夢を託すことが出来ます。あなたに出会えていなかったら、きっといつまで経っても、なあなあで済ますような人間になっていたと思います。
あなたに出会えて本当に良かった。ありがとう。
そして、そんなあなたが大好きでした。
光田皇輝
泣いた。涙が本当に枯れるくらいまで泣いた。追いかけてきてくれた先生が抱きしめてくれた。私はまた泣いた。
光田皇輝様
まずは急に私の前からいなくなったことに怒ります。本当に何を考えているのですか。あなたは本当にバカです、ウルトラバカ野郎です。もっと自分の身を案じるべきです。
…と、まあ怒ってばかりいても仕方ありません。あなたから託された儚き夢は、今も生き続けています。移植から数ヶ月経ちましたが、特に拒否反応というものも起きず、平穏無事な生活を送っています。因みに最近大検に受かりました。
でも、やっぱりあなたがいないせいか、心なしか寂しいという気持ちが出てきます。初めの内は、こうやって手紙なんて書ける状態ではありませんでした。あなたがいないことに毎日のように泣いて、悲しんでいました。でも、こう暗くなっていては、あなたも嬉しくないと思い直してからは、こうして元気も取り戻せました。
あなたに出会えて良かったです。ありがとう。
そして、そんなあなたが私も大好きです。
綺堂歩美
終わっとけ