スポーツやってると脳筋とか言われたりするけど、実際のところは割と頭良かったりするんですよ?

                     水牛ダンス

 

 

「なあシン、月9で視聴率三〇パーセント超えたのって、『空から降る一億の星』入ってたっけ?」

「いや、入ってねえ。ありゃ確か二〇パーセントそこそこだったはずだ」

「おっ、正解だ。流石芸能ジャンルは強いなあ」

 常に鼓膜を揺らし続けるほどの喧騒に包まれた空間で、筐体を目の前に男四人が睨めっこをしている。

「ユウー! イギリスの物理学者の名前がついた真空放電管って何―!?

「あー、それはねー……確かクルックス管だ!」

「すっげー! お前よく分かるなこんな問題、俺にはさっぱり分からねえよ」

 とりあえず、問題を解いているということはお分かり頂けただろうか? どうせなら、もっと答えを紐解いていこう。彼ら四人がいる場所……いつ訪れても五月蝿く、多くの人が蔓延り、筐体に対して様々な表情を浮かべてしまう場所。とどのつまり、彼らはゲームセンターに来ているのだ。そして、今彼らがどっぷりハマっているのが、筐体のアーケードゲームである【クイズマジックスクール】というものである。

「あ、スギこれ分かる? 一三五〇年〜一三五二年の間に起きた権力争いってやつ」

「任せろ、観応の擾乱さ」

「おおっ! 助かったよー」

「な、なあコウ……お前これ分かる……?」

「お? どんな問題だ? ……二〇〇〇年の日本ダービー馬!? そんなの知らねえよ!」

「だよなあ……名前的にエアシャカールとかそれっぽいけど」

「こうなりゃ直感だ! それでいっちまえ!」

「うらぁ!」

「「…………アグネスフライトかああ!」」

 ……何というか、めちゃくちゃ楽しんでいる四人だが、別にいつもいつもこうやって遊んで(闘って?)いるわけではない。

 まず、【コウ】と呼ばれた彼は、名前を櫻井(さくらい)昴輝(こうき)といい、普段はプロゴルファーとして活躍している。二一歳にして四大トーナメント全てで一〇位以内に入った実績があり、国内ツアーにおいては通算一三勝を挙げている。

 次に、【スギ】と呼ばれた彼は、名前を杉田(すぎた)佳正(よしまさ)といい、普段は陸上競技のトラック種目の選手として活躍している。一七歳で北京オリンピックに一〇〇メートル走の日本代表として出場、あの『ウサイン・ボルト』と共に決勝の舞台で走っている。

 そして、【ユウ】と呼ばれた彼は、名前を東條(とうじょう)裕雅(ゆうが)といい、普段はフィギュアスケートの選手として活躍している。男子フィギュア界史上初となる、世界選手権での優勝をはじめ、探偵としても捜査協力を仰がれている。

 最後に、【シン】と呼ばれた彼は、名前を梶晋(かじしん)太郎(たろう)といい、普段はプロボウラーとして活躍している。一六歳の時に全日本プロボウリング選手権に優勝し、そこから前人未到の四連覇を達成している。

 ……とまあ、本来ならばこういった頭を使うものとは、今ひとつ縁が無さそうな四人が、様々な問題に立ち向かっているというわけである。少しくだらないように思えるのは、気のせいではないだろう。

 

 さて、このクイズマジックスクール、通称は【マジスク】と呼ばれ、基本的には幾つかあるジャンルのクイズを解いていくゲームだ。

ジャンルは全部で七つ。【アニメ&ゲーム】、【スポーツ】、【芸能】、【ライフスタイル】、【社会】、【文系学問】、【理系学問】、後はこれらがごちゃまぜになって出題される、【ノンジャンル】というものがある。

 先ほどの四人の会話の中にもジャンルのことはちらほら出てきており、一度そのジャンルから出題されると、五問くらいは同じジャンルから出題されることになる。つまり、自分の苦手なジャンルから出題されると、少しの間不利な立場になってしまうのだ。

 勿論この四人だって例外ではない。

 まずコウは、典型的な文系故に、理系学問が致命的なまでに苦手としている。反対にそれは、文系学問が優れていることを示している。他には同じ文系という理由から、社会が得意ジャンルであり、現役のスポーツ選手の為、当たり前かもしれないが、スポーツのジャンルが得意である。これは、コウ以外の三人も含まれることではあるが。それ以外のジャンルは、可もなく不可もなくといった具合で、得意でもなければ苦手というわけでもない。

 次にスギは、コウと同じく文系学問が得意だが、何故だか社会のジャンルはかなり苦手としている。またドラマやバラエティをあまり視聴しない為、芸能に関しては半分以上答えられた試しがない。しかし、またしても何故だかトレンドには割と詳しく、ライフスタイルが得意なジャンルに当てはまる。また、ゲーム好きでもある為、アニメ&ゲームのジャンルも成績が良い。

 そしてユウだが、この四人の中で唯一の理系の為、他の三人から頼りにされるくらいに理系学問が得意である。かといって、文系学問が苦手というわけではなく、人並み以上の知識はあったりする。オタク気質故にアニメ&ゲームも得意で、流行にも疎くない為、ライフスタイルやシ社会といったジャンルまでお手の物である。彼には苦手なジャンルというのは無いのだ。

 最後にシン。クールなフリして結構ミーハーな性格の彼は、芸能ジャンルにおいて右に出る者はいないであろう。ドラマであれ、音楽であれ、映画であれ、果ては海外の分野まで網羅出来るくらいに芸能のジャンルが優れている。彼も苦手なジャンルというのはあまり無いようだが、ユウほど出来るということでもないらしい。まだ比較的、文系学問なら分かる問題が多いとのこと。

 といったように、各々得意なジャンルは結構バラバラである。しかしだからこそ、分からない問題が出てきたときに協力し合えるのかもしれない。

 

「おっ! 文系学問じゃん。これなら予選の突破は確実だな!」

「げっ! 社会だ……。何でよりにもよって苦手な問題ばっかり出てくるのさ……」

「ノンジャンルー? 出来ればアニゲー(アニメ&ゲームの略称)が良かったなー」

「理系学問……。ユウ、任せた」

「えっ! 丸投げ!? ちょっとくらいは自分で考えてみようよ」

「いやいやいや無理無理無理。エビ食べて、うわっこれカフェオレみたいに美味いとか言えないのと同じだ」

「何でカフェオレなんだよ!?

「でも、流石に丸投げはどうなのさ」

「分かったよ……頑張ってみるよ……」

「すげー落ち込んでる!?

 今、彼らがプレーしているのは【全国オンライントーナメント】である。このマジスクはアーケードゲームなので、当然のようにこういったオンラインモードがある。全国どこでも繋がっているというのは、こうやって考えてみるとゲームセンターって凄い気がしてくる。

話が少し逸れた。ではどんなモードなのか?

内容は至ってシンプルで、自分を含めて十六人のプレイヤーでトーナメント戦を行うといったものだ。まず最初にトーナメントの予選が行われ、ここで成績下位六名が脱落する。つまり、成績上位十名が先に進める。

次に準決勝。ここでも成績下位六名が脱落し、残ったプレイヤー四名が先に進むことになる。

そしてお待ちかねの決勝。この最後の舞台で大きなポイントは、四名それぞれが自分で問題のジャンルを選ぶことが出来るのだ。

まあ、いちいち説明を聞くよりも、せっかく良いサンプル……いやいや見本がいるのだから、そちらを見ながらどういったものなのか、分かっていただくとしよう。

「平安時代、皇族以外で関白になった人? えーっと、確か藤原基経だ!」

「民主党の代表……? 小沢一郎と、あれ? 細川護煕って入るのか? コウ、どうなんさ!」

「えっ!? た、多分……?」

「多分!?

「またアニゲー? これで三問連続じゃん、ノンジャンルなんだから、もっとバラけてよー。『侵略! イカ娘』に出てくる海の家か……れもん、だったかな」

「世界初の太陽熱発電? ちょ、ユウどこ!?

「……四択問題じゃん。分かんないなら、勘でいってみたら?」

「薄情者」

「ほっといてよ」

 見本を見てもらうとは言ったが、このペースでいくと、いつまで経っても終わらないので少し割愛させていただく。

 

――予選終了時までスキップ。

 

「よし! 三位!」

「おー八位。通るもんだね」

「やったー一位だ!」

「頼む頼む頼む……うおお十位! 危ねえ!」

 どうやら無事に四人共予選を突破出来たようだ。

因みに補足しておくと、別に予選で上位に入ったからと言って、次の準決勝で他のプレイヤーよりアドバンテージが貰える、といったようなシステムはついていない。あくまでも予選は予選。準決勝は準決勝。たとえ予選が一位でも、準決勝で上位四名に入れなかったら、そこで終了である。

「さーて準決勝だ! ジャンルは……アニゲー!? 自信ねえなあ……」

「俺は……ノンジャンルか」

「スポーツ! スケート問題来いっ!」

「ライフスタイルか……微妙だな」

 準決勝のジャンルは、勿論予選とは被らないようになっている。ということは、予選で苦手なジャンルが出てきて、その問題を何とか乗り切ったとすれば、準決勝は予選より楽になるというケースもある。当然、逆パターンで絶望するケースもありのだが。

「『おじゃる丸』で、おじゃる丸を追っている小鬼……うわっ何だっけ!?

「徳川家康の幼名……吉法師(きっぽうし)、は信長だったよな」

「初めて名前に「ヲ」を使った競走馬!? 出たよ、こういうイレギュラーな問題ってよくないと思うな」

「フランス語で「猫の舌」という意味のクッキー? これは分かる、ラング・ド・シャのはずだ」

 四人共雲行きが怪しい。難度が上がった問題に苦戦しているようだ。予選に比べると難度も上がる為、勝ち進むのは思いの外容易ではない。

 では、四人がどんな結果になったのか見てみるとしよう。

 

――準決勝終了時までスキップ

 

「五位……!? しかも一点差とか……悔しすぎるぞ」

「二位か。意外にみんな出来てなかったんだな」

「イエーイ一位! これは追い風吹いてるね!」

「まさかの二位か! 久しぶりに決勝に進んだ気がする」

「……って、俺以外みんな決勝いけたの!?

「あれー? コウ落ちたの?」

「まあ、ドンマイってやつさ」

「くっそー! 僅差だったんだよ、あそこで凡ミスしなければなあ……決勝いけてたのに!」

「ざまあ」

「何だとこの野郎!」

 残念ながら一人落ちてしまったようだ。見本としては些か宜しくないが、まだ三人残っているので、そちらで許していただきたい。

 上位の四名に残れなかったコウは、ここで終了。百円での一クレジットを消費して、コンティニユーを選択するか、このままプレーそのものを終了するかを選ぶこととなる。

 反対に上位四名に残ったコウ以外の三人は、先ほど申し上げた通り、自分でジャンルを選択し、優勝を目指すこととなる。ここでは、自分以外のプレイヤーの不得意なジャンルを選ぶのか、自分が得意なジャンルを選ぶのか、こういった点が勝敗を分けるカギとなるだろう。

「あーあ、負けちまったし、今日はもう終わるとするかな」

「ここは他のプレイヤー的に考えて、文系学問だな」

「何だ、みんな理系苦手じゃないんだねー。仕方ない、アニゲーにしますかあ」

「芸能ジャンル一択!」

「少しは捻ったらどうなんさ」

「いや、捻ったら全然分からなくなる」

「嘘だろ」

 ジャンルも決まったようで、ついに決勝戦が始まった。予選、準決勝と勝ち進んできた相手なので、たとえ苦手なジャンルでも答えてくることがある。コウがやらかしてしまった、凡ミス……ケアレスミスをしないことが、優勝する為には必要不可欠である。

 後は、自分は分かるけど、他のプレイヤーは分からない……なんていう都合の良すぎる問題が出てくるかどうか、要するに運が自分に向いているかどうかというのも、優勝を目指すにあたって重要なものとなる。

「えー、伊能忠敬が作った地図は……大日本沿海興地全図、で合ってるよな?」

「え、そこ俺に聞いちゃうの?」

「だってコウはもう落ちてるしさ」

「うるせえ!」

「劇場版『TIGER BUNNY』の主題歌かー。確か『リニアブルーを聴きながら』とかいう名前だったよね」

「映画『有頂天ホテル』に出演した俳優……えーっと、役所広司と香取慎吾と……そうそう、唐沢寿明も出てたな」

 流石に自分が選んだジャンルでは、強さを発揮しているようだ。しかしそれはプレイヤー全てに当てはまること。やっぱり勝つ為には、運にも左右されてしまう。

 さて、彼らの日常と共にこうやって一つのアーケードゲームにスポットを当ててみたわけだが、如何だっただろうか? 勿論、ここで話した内容は、あくまでもゲームの一部分だ。本来ならば、もっと多くのことを語るべきなのだろうが、生憎と彼らも第一線で活躍するアスリート。暇がないというのも事実である。

 更に言ってしまえば、こうして話を聴くだけではなく、実際にその目で、耳で、頭で、感じ取ってもらいたいのだ。たかだか筐体のゲームに何を熱くなっているんだと、嘲笑する者もいるだろう。

しかし、そんな奴らはどうでもいい。まずは知ることから始めればいい。脳筋が体を形成して、アクティビティに動き回れるようになったホモサピエンス共でさえも、ここまで熱くなれるゲームというのを知ってもらえれば、それでいい。

……まあ、別段そんなに大したことをやっているわけでもないのだが。

え? 残った三人の結果?

そういうのは、ここでは語らないのがお約束ではないだろうか。少しぼかすような形で終わってみるというのも、案外悪くないような気もするのだ。

もし、どうしても知りたいというのならば、マジスクをプレーしてみて、オンライン上で対決してみてはどうだろうか。成績は分からなくとも、実力を測ることくらいなら可能性はある。かなりレアな確率ではあるかもしれないが。

「トーナメント終わった?」

「さっき終わったさ」

「僕も終わったよー」

「俺もだ」

「じゃあさ、今度は対戦しねえ?」

「対戦か……悪くないな」

「久しぶりやるね、それ」

「いいぜ、やろう」

 おっと、まだまだ彼らはプレーを続けるみたいだ。では、本当にこれにて失礼するとしよう。

 

                         じ・えんど

 

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