超能力研究所 -Dog With Supernatural Power-

 

 
                       風雅
 
――超能力は存在する――
一般的にオカルトとされているもの、主に超能力と呼ばれるものは確かに存在している。その存在は密かに研究され、遺伝子の異常によるものだということまで判明していた。
表向きには隠されているが、超能力者を集めた組織も存在している。その組織はInstitute Of Supernatural Powers ――通称IOSP――と呼ばれ、一般人には解決不可能とされる事件の捜査などを行っていた。
 
 ある日、IOSPの本部に警察からの連絡が鳴り響いた。
瞬間移動(テレポート)の能力者と思われる人物が一般人を暴行し、逃走。IOSPに協力を要請します』
「了解。すぐに出動します」
所長らしき人物が指示を飛ばす。
遠野(とうの)君、犯人が現れる地点を予知してくれ。そのあとは不知火(しらぬい)君と現場に向かって犯人の確保を頼む」
「わかりました。すぐに不知火さんにも伝えます」
 
犯人逮捕に向かった不知火と遠野が見たのは予想外の光景だった。予知が外れたわけではない。犯人はそこにいた。しかし、その上には…
「「犬!?」」
犯人は道路に倒れており、その背中には可愛らしいチワワが乗っている。犯人は逃げようと必死にもがくがチワワはびくともしない。
「不知火さん、この犬……」
「気になるが、まずは犯人の確保が優先だ。犬についてはそのあと考えよう」
「そう、ですね。とりあえず警察に連絡してここまで来てもらいます」
「頼む」
 
犯人を無事警察に引き渡した2人は例のチワワを連れて本部に帰っていた。
「おかえりなさぁい、遠野さん不知火さん。あれぇ? その犬、どうしたんですかぁ?」
「現場に向かったらこの犬が犯人を捕まえていたんです。愛海(まなみ)ちゃん、ちょっとお願いしてもいい?」
「はぁい。わかりましたぁ。……ワンちゃん、どうやって犯人を捕まえたのかぁ教えてくれるかなぁ?」
「ふむふむ……。この犬、念力が使えるみたいですねぇ。警察から逃げているのを不審に思って足止めしていたらしいですぅ」
「やっぱり。どうしましょうか……。特に問題がなさそうならそのまま帰しますか」
「俺もそれでいいと思「犬が超能力を使えるというのかい!?
「所長……そうですけど、このまま家に帰すという事に「IOSPで雇おう!!!
「何言ってるんですか!そんなこと認められるわけないでしょう!」
「ワンちゃんと一緒に働けるのぉ!?愛海は嬉しいかもぉ」
「愛海ちゃんまで所長に乗っからないで!」
「まずはこのお手柄のわんこに自己紹介をしなければな!」
遠野の話も聞かずにチワワに自己紹介を始めてしまう所長。
「僕の名前は上田(うえだ)(たか)()。このIOSPの所長をしている。僕の能力は接触感応(サイコメトリー)千里眼(クレヤボヤンス)だ。二つの能力を持っているんだ、珍しいだろう?ちなみにIOSPというのは超能力者を集めた組織の事だ。」
「次は愛海が自己紹介しちゃいまぁす!えーっとぉ榎本(えのもと)愛海(まなみ)でぇす。能力はさっきちょっと使っちゃったけどぉ精神感応(テレパシー)でぇす!次、不知火さんどうぞぉ?」
不知火(しらぬい)智樹(ともき)発火能力(パイロキネシス)だ。」
「ほらほらぁ、遠野さんも自己紹介しなきゃぁ」
「……私は遠野(とうの)未来(みく)です。ここの副所長で、能力は予知能力(プレコグション)です」
「ワン!ワン!クゥーン」
「ワンちゃんの名前はエリザベスでぇ、三才のオスらしいですぅ」
 エリザベスを囲み盛り上がっている所長と愛海。不知火もエリザベスの頭をなでている。しばらくその光景を見つめるだけだった遠野だが我に返り……
「そうじゃなくて!ここで犬を雇うなんて認められないと言っているんです!」
「ええー。いいじゃないか別に。所長の僕がいいと言っているんだからいいんだ!」
「所長、IOSPは仮にも国家機関なんですよ?国のために、超能力者が起こした事件を解決したり、その事件が公にならないように取り図るのが我々の仕事なんです!犬を飼っている余裕なんてないんですよ!」
「飼うわけじゃないぞ?エリザベス君だってれっきとした超能力者なんだ。IOSPの一員として雇うんだ」
「それこそ無理ですよ。国が犬を雇うことを許すとお思いで?」
「なら、こうしよう!なにか事件が起きたときだけエリザベス君をIOSPの所員が迎えに行く。普段は飼い主様にお任せすることにしよう。エリザベス君への報酬は……そうだな、ドッグフードでどうだ?」
「ワン!ワン!」
「一番高級なのを頼む、だそうですぅ」
「必ず君が気にいるものを準備しよう。おっと、もちろん代金は私のポケットマネーで支払うよ?」
遠野の殺気を感じた所長はそう付け加えた。
 
 こうしてエリザベスは非公式ではあるがIOSPの一員となった所長は飼い主がいない時間を見計らって毎日のようにエリザベスをIOSPに連れてきていた、。所長と愛海はエリザベスの事を「エリー」と呼び、IOSPの皆にかわいがられていた。
 
「エリー君は本当にかわいいな。IOSPのマスコットだな!ほら、ドッグフードをお食べ?」
「……」
「どうしたんだ、遠野君。浮かない顔をしているが」
「エリーなんて呼んでずいぶん仲良くなったみたいですね」
「そんな怖い顔しないでエリー君を触ってごらん?フワフワだぞ?」
「結構です。上にばれたらどうなるかわからないのに呑気なものですね」
「ばれたって構わないだろう。別に経費をエリー君に使っているわけでもないし」
「はいはい。所長に何を言っても無駄なのは十分にわかりました」
「本当に素直じゃないなぁ」
 そんな中、本部に設置されている警察からの連絡用スピーカーが鳴り響く。
『緊急連絡! 若草町(わかくさちょう)にて通り魔事件が発生。しかし、犯人の目撃情報が皆無。何らかの能力を使っていると思われます。現在、負傷者は五名。徐々に南西に向かっています。協力を要請します』
「了解した。遠野君、不知火君、行くぞ!」
「ワンッワン!」
「エリー君、気持ちはわかるがこれは一刻を争う。君を連れていくことはできない」
エリザベスは所長の制止を振り切り移動用の車に乗り込む。
「はぁ……仕方がない。不知火君、運転を頼む。エリー君、おとなしくしておくんだぞ?」
「ワン!」
 不知火の運転により現場に向かう3人と一匹。
「そろそろ事件があったあたりだな。僕が見てみよう」
 所長が千里眼(クレヤボヤンス)の能力によって辺りを窺う。
「お、いたぞ!この先五〇〇mくらいの場所だ。透明化(インビジビリティ)を使っているようで周りの人間は気づいていない。急ぐぞ!」
 車を降り、走り出すIOSPのメンバーたち。段々と人気がない路地へと入っていく犯人。
「おそらく意識をそらせば透明化(インビジビリティ)は維持できないはずだ。不知火君、発火能力(パイロキネシス)で犯人の気をそらしてくれ。その間に僕が犯人を拘束しよう。遠野君はフォローを頼む」
「わかった」「了解です」
辺りに人がいないことを確認し、不知火が発火能力(パイロキネシス)を使う。
「うわぁ!なんだ!?いきなりズボンに火が!」
火を消そうと必死になるあまり透明化(インビジビリティ)の能力まで意識が回らず、犯人の姿があらわになる。
「よし、いまだ!」
所長が犯人に飛びかかった、その時
「所長、危ない!!!
所長がその声に反応した時はすでに遅かった。犯人はポケットからナイフを取り出し所長の首に突き付ける。
「「所長!」」
「お前ら一体何者だ!?警察のまわし者か?」
「我々は警察から協力を依頼され、貴様を捕まえに来た」
「超能力者は超能力者同士ってことか?お前ら超能力者だろう?」
「そうだ」
「なら、オレの気持ちがわかるだろう?人とは違う力。それをオレは最大限に生かしたいと思ってるだけだ」
「最大限に生かしたいというのは賛成だ。しかし、貴様の行動は理解できないな。我々は世の中のために能力を使うために組織に入った。自分の私利私欲のために力を使いたいわけじゃない!」
「お前、自分の立場がわかってねえな!?
 その言葉と同時に犯人はナイフを所長に突き刺そうとする。
「ワン!ワン!」
 しかし、ナイフは所長の首に触れる直前で泊まった。
「くっそ、なんで体が動かねえんだ!?
 所長は素早くナイフを取り上げ、手錠をかける。
「危機一髪だな。だが、これは……。まさか、エリー君!?
「クゥーン」
 心配そうに所長にすり寄るエリザベス。
「あの一瞬で念力を使ったのか!すごいぞ、エリー君!!
「よくやったな、エリザベス」
「……」
「遠野君?」
 遠野はうつむき、肩を震わせている。
「私の……私のせいです。もっとちゃんと予知していれば……。皆さんを危険から守るのが私の役目なのに……。それなのに、私……」
「ワン!」
「エリザベス……私をなぐさめてくれているの?」
「遠野君、終わりよければすべてよし、だ。誰もけがをしていないし、犯人も捕まえられた。問題なんて何もないだろう?それに、犯人を怒らせてしまったのは僕だしね」
「所長……」
「俺も何もできなかった。遠野が自分一人を責めることはない」
「不知火さんも……」
「ワン!ワン!」
「エリザベスまで……。ありがとう。本当にすいませんでした」
「よし、事件も解決したことだし、この後みんなで焼き肉でもするか!留守番を任せている榎本君も一緒にな」
「それはいい」
「そうですね。もちろん所長のおごりですよね?」
「ワン!」
「僕のおごりか……まぁ、いいだろう。もちろんエリー君にもとびきりの肉を用意しようじゃないか!」
 
 
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