ほしかったものは

                     

 

 

目の前が、まっくらになった。

もう生きている価値なんて無いんじゃないの。

私なんて、生きていないほうが良いんじゃないの。

ぐるぐる回る自問自答が止まらなくなって、胸がきゅうっと痛くなった。

 意味もわからず溢れる涙が、頬を伝って流れおちる。

 

 苦しいよ。

 

 

誰かに首を絞められてるみたいに、息さえまともにできやしないの。

 

 

 こんなにも苦しいのに。

 

 どうして誰も、私をわかってくれないの?

 

そんな疑問が浮かんだ瞬間、生きている意味さえわからなくなった。

 

 

もし今私が、ここで死んだとして、一体何がどう変わるんだろう。

 

きっと世間は何も変わりやしない。

私がただの過去になるだけ。

家族は泣いてくれるかな。

クラスメイトは、友達は、あいつは…?

 

頭に浮かんだ幼馴染の顔に、私は小さく苦笑した。

 

何でこんな時にまで、(の事を考えるのだろう。

 

そんな事を思っていたら、無意識のうちに指は携帯で明の番号を探していた。

 

どうしてこんな事をしてるかなんて、自分でも理由がわからない。

こんな時間に迷惑かなとか、回らない頭で呟きながら、私は通話ボタンを押してしまった。

ぽとりと画面に落ちた水滴に、そういや私、泣いてたんだっけ、とどこか他人事のようにそう思った。

もう自分さえ自分でないような。遠い他人のような気さえしてくる。

 

『奈々

()?どうしたんだ』

 

「―――――…死にたいの」

 

 

明の声が聞こえた途端、気が緩んだのかさっきからずっと出そうで出なかったその一言が、ぽつりと口から零れ落ちた。

 

 

だめだ。

 

言ってから後悔したってもう遅いのに。

震えそうになる手を押さえつけて、私は明の言葉を待った。

 

暫くの沈黙の後、彼は静かに、

 

 

『死にたいのか?』

 

とだけ言った。

 

「うん」

 

 

明の言葉を肯定すると、電話の向こうから、小さな溜息が一つ聞こえる。

 

まるで、めんどうくさい。とでも思われているようなそれに、私はついに嗚咽を漏らした。

 

そうだよね。面倒だよね。

 

じゃあ、この話ももう止めにしなくちゃ。

 

電話を切ろうとしたその時に、耳に明の声が耳に突き刺さった。

 

『奈々が本当に死にたいんなら、俺にそれを止める権利は無いよ』

「―――…っ」

ぶわっと、涙がまた溢れだした。

心はナイフでぐちゃぐちゃにされたみたいに抉られて、ショックで頭が回らない。

そんな私の脳にまた、直接流れるように明の声が届いてきた。

『でも、奈々が死にたいほど辛い思いしてんなら支えてやりたい』

「?」

『俺は奈々が大切だし、好きだから、「死にたい」じゃなくて「助けて」って言うんなら、俺は何からでも奈々を助けるよ』

 

―――大切?好き?助ける?

 

 

何言ってるの?

 

私は別にそんなこと望んでないし求めてない。

それにそんなの、無理に決まってる。

だってこれは、私自身の問題なんだから。

助けてもらいたくて、明に電話したわけじゃないんだよ。

だけど、明の言葉は、私の胸にすうっと染みて満たしてくれる。

 

大切。好き。

 

 

そっか。私は……。

 

 

涙は相変わらずぼろぼろこぼれるし、胸は痛いし、息も詰まる。

 

だけど少しだけ、楽になった。

 

「うん。お願い、助けて」

 

 

電話の向こうで「わかった」と、明が力強く頷いた。

 

 

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