探偵喫茶――農園事件・発生編――
久賀峰
 
 
かれこれ三時間は車に揺られただろうか、窓から外を眺めてみれば先程に比べて少し高くから見下ろしているようにも感じる。事実として今は山の麓を緩やかに上っているのだから当然といえば当然なのだが。
「和田さんは気楽で良いですね〜カーナビあるからって年下の女の子に運転を任せて転寝なんてしちゃってるんですから」
 隣で嫌味を言ってくるのは運び屋こと和多(わだ) (みこと)である。どうにも俺は世間一般的に鈍いと評される感覚を持っているらしく、車の免許を取ることができないでいる……もっとも既に取得自体を諦めているわけなのだが。
「俺は運転できないからな。ちゃんと臨時バイト代と豪華賄出してやるんだから我慢しなさいな」
「うぅ、そんなもので釣られた過去の自分を殴ってやりたい……」
「新手の被虐趣味か何かか」
 ちなみに彼女が釣られた餌の詳細は一週間の昼食無料券と今月分の給料の値上げである。復路でかかる金は店の経費で落とすとはいえたかが一バイトに任せて良い労働とは言い難い。おそらく命自身も俺達が今向かっている場所に興味があるのだろう。
「ほら、見えてきたぞ、もうひと踏ん張りだ。」
「なんだかすっごい道が曲がりくねってるように見えるのは私の見間違いですかねぇ!」
「……前回はあんな道なかったはずだけどなぁ」
 目算ではあるがあと三十分は命の愚痴は続きそうである。俺は賢明に再度意識を夢の世界を旅立たせることにしたのだった。
 
 
 結局目的地に着いたのはあの会話から一時間が経過してからだったらしい、と俺は隣に意識を向けないように注意しながら時計を確認する。
「お早いお目覚めですね〜和田さん?」
「……再来月まで給料上げたままにするから勘弁してくれないか?
「もちろん昼食もですよね?」
「……それで気が済むなら」
 俺の言葉で幾分かは機嫌が直ってくれたらしい。ここで臍を曲げて帰られてしまうわけにはいかないのだから仕方ない……また元同僚に飯をたかる必要は出てきそうではあるが。
「それにしてもこの辺りに生えてるの全部がコーヒーなんですか?」
「そのはずだ、品種まで同じなのかは俺にはわからんけどな。じゃあ俺はちょっと手続きしてくるからここで休んでてくれや」
 命の気だるげな返事を背中で聞きながら待ち合わせ場所へ足を運ぶ。念を入れて一時間前に着くように店を出たおかげでまだ待ち合わせには時間があるが、俺が待っている分には問題にすらならないだろう。
「ってあれ?早くないですか秋元さん?」
「そういう和田君こそ早いじゃないか。学生時代はいつも遅刻スレスレだったろうに」
 しかし俺の予想は見事に外れてしまっていたらしい。待ち合わせ場所だった倉庫の前には既に目的の人物が立っていた。秋元(あきもと) () (てる)(ひろ)の中学時代の恩師であり、教職を全うした後は実家のコーヒー農園を継いでからは良い取引相手でもある。(あき)。彼は俺のこと和田(わだ)
「いくら俺でもあの学校卒業した以上そこまでだらけた生活送れませんって」
「はっはっは!そういえば君の進路はあそこだったな。私も昔の同僚に話を聞いたときは驚いたものだよ……もっとも判君が一緒だと聞いて納得したがね」
「アイツが俺の人生を百八十度変えたというのは否定できませんよ」
 脳裏に浮かぶのは胡散臭い笑みを浮かべてにじり寄ってくる悪友の姿である。秋元さんも中学時代の判を思い出したのだろう、ほおが引き攣ったのが分かった。俺が問題児だったのは自覚しているがアイツはまたベクトルが違う問題児だったのだから記憶にも残りやすいだろう。たとえるなら俺を始めとした問題児がダイナマイトだったとすればアイツはまさかの大地震である。もはや比較すらもできない別カテゴリなのだ。
「ダイナマイトと地震か……地味に的を射ているね。ダイナマイト(君達)はきっかけがなければ何もしなかったけど、地震(判君)は突発的に問題起こした……それも規模も違うし発想も違う
「あえて違うところ挙げるなら被害が全てあいつの計算のうちってことでしたから……」
 全クラスの生徒が全員でストライキを起こすなど誰が考えるだろうか。しかも理由がとあるセクハラ教師の一派を追い出すことである。後日責任をとって学校から去った教員が全員別容疑で逮捕されたときは本当に驚いた。あれほど驚いたのはこの事件を入れても二度しかないのである。
「まぁ早くこれ確認しちゃって休憩しましょう。あいつのせいで無駄に疲れました」
「それは濡れ衣だと言ってやりたいが……本音を言わせてもらえば私も君のコーヒーでも飲んで一息つきたいくらいだよ。あの子がなにか宗教でも立ち上げないかとたまに不安になってるんでね」
 これは秋元さんにアイツの職業を伝えない方が良いのだろう。あいつが警察……しかも幹部にまで登りつめたことを知ったらこの恩師は卒倒してしまうかもしれない。
 
 
「ニュークロップが百ずつにオールドビーンズがニ百ずつ、バーストクロップが五十ずつ……はい、確認終了です」
「お疲れ様.。運転手のお嬢ちゃんも一緒に休憩でもしないかね」
 その後、時間をかけて頼んであった豆の確認を負えてようやく仕事が終了した。なまじ量が量なだけに中々疲れたが、秋元さんが豆の選別をしてくれているだけマシだと割り切ることにする。もしそこまでやっていたら今日中には終わらなかっただろう。
「じゃあお言葉に甘えて命ちゃんもコーヒー頂きますね!」
「あ〜っと……じゃあシティからフルシティくらいのあります?できればオールドビーンズで」
「えっと……何語ですか?和田さん」
「ggrks」
 まぁふざけた返答をしてしまったが、ここでコーヒーについての知識を少し教えることにした。どうせ帰るころにはわすれているのだろうが教えて損があるわけではないだろう。
「まず前提として知っててほしいのは豆の年季だ。いつその豆が収穫されたかによって豆の呼び名は変わってくる」
「さっき言ってたオールドビーンズとかニュー……なんちゃらってやつですか?」
「ニュークロップな。まぁ正解だ。まず今回仕入れたのがニュークロップとバーストクロップ、あとオールドビーンズ」
 実物があるのだから見せた方が早いだろう。予備の麻袋を命に取り出させて俺はまずニュークロップの麻袋を破く。
「ニュークロップは簡単に言えば一番新しい豆だ。海外の基準ではあるんだがここでもメインの収穫を十月に行ってるからな、今月中のはニュークロップに分類される」
 一つまみ程命に渡し、ニュークロップを新しい麻袋に移し替える。なら破るなをいわれそうだが、店では別の容器に移すからと破ること前提で固く結んでしまった以上仕方がない。
 命はグリーンコーヒーを見たことが無いようで、まだニュークロップを見ている。だがそれに付き合うとコーヒーを淹れることができないのでさっさとバーストクロップの袋を破る。
「それでこれがバーストクロップ。これは去年作られた豆だな」
「去年?じゃあ十一月から九月の状態はなんていうんですか?」
「それはねお嬢ちゃん。カレントクロップっていうのさ。本当はニュークロップもカレントクロップの一部なんだけどね、十月に採れたのは特別なんだよ」
「そ、だからある意味じゃ今回カレントクロップを買ってると言えなくもないわけだ。じゃあ今回買った最後のやつな」
 カレントクロップの説明は秋元さんがしてくれたようなのでその間に今度はオールドビーンズを取り出してバーストクロップと残りのオールドビーンズを閉まってしまうことにする。
「これが年季を示すものとしては最後のオールドビーンズだ。バーストクロップより古い奴だな」
「うわっ黄色いんですね。そういえばオールドビーンズ以外は皆クロップって付いてましたけどこれにはないんですね」
「あ〜……オールドクロップってのもありはする。するんだが……そいつはオールドビーンズの中でも限定された者を示すのさ」
 その条件が厳しいせいか今ではほとんど手に入れることができないんだが……まぁ教えておくとしよう。どうせ忘れるなら変わらないわけだし。
「オールドクロップは二年以上を皮が付いた状態で保管したもんを呼ぶんだよ。ただそのままで保管するのは最近しないからオールドクロップとは言い難い。そこでオールドビーンズって呼び名ができたってことだ」
 次に説明するのは焙煎度だ。ただこれについてはここに実物がないこともあってコーヒー飲みながらで良いだろう。そう結論付けた俺は二人を促して事務所へと足を向けるのだった。
 
 
「わっ!凄い切手の数ですね〜これがコレクターってやつですか!」
「これとか言うなっての。すみません秋元さん」
「ははは、別に構わんさ。むしろ私のようにどっぷり浸かったコレクターから見れば褒め言葉だよ」
 後ろから命に観察されつつもコーヒーを淹れた俺は、途中、トイレに行くとかで別れていた秋元さんの案内で応接室に通される。するとそこは切手で壁という壁が埋め尽くされていた。もちろん壁紙が切手というわけではなく、額に飾られた切手がまるで蝶の標本かのように所狭しと展示されていた。
 この部屋を見ればわかることではあるのだが、彼、秋元智彰の趣味は切手集めである。中学時代にも有給をとっては海外に出向いて切手を買い付けていたこともある彼である。むしろよくぞこの部屋に収まったと謎の感心をしてしまうほどである。
「いやぁ……集めたらきりが無くてね。ちょうど今週は切手の博覧会をイベントとして開いてるんだ。ここにはとても置けないような貴重な切手や保険金をかけた高価な切手達はそちらに展示しているから残りの説明が終わったら行くことにしよう」
 訂正、全然収まっていなかったようである。しかも秋元さんの一存によってこの後の予定に鑑賞会が決まってしまったようだ。
「秋元さんには音もありますし断れませんね……では焙煎度の説明だけしてしまいましょうか」
「私切手の良し悪しなんて……」
「まずこのコーヒー。だいたいフルシティ寄りのシティかな?これは街とか関係ないからね」
「無視ですか、スルーですか……」
 正直俺も良し悪しなんてわからないし、突くと藪蛇になりそうなので焙煎度の説明に強制的話題を変える。正直汚したら賠償金払う羽目になりそうな切手がたくさんあるところなんか行きたくないと思うのがふつう……いや、ここまでにしておこう。
「シティの由来はニューヨークシティから来てるってのは聞いたことあるけど正しいのかは知らんな。これは日本や北欧なんかで好まれてるのだな。ちなみに命に店で出してるのは全部オールドビーンズのシティローストだ」
 むしろだからこそ、この具合の物ががあるのかを聞いたわけだが。
「そもそも焙煎度ってのはだな……」
少し長くなるだろうが焙煎についてをきっちり教え込むことにしたときである。
パァン!と何かが破裂したような音が響いたかと思えば外から聞こえるのは火事だと叫び、騒ぐ人々の声。
「か、火事?えっと防災ずきん!ハンカチ当てて……えっと、えっと……そうだ!姿勢低くして窓を締める!」
 その声が聞こえたのだろう。命が慌てて避難を始めようとしてこける。そう、避難しようとしているのは命だけである。
「命……安全の確保は大事だが……声がしたのは外だ……」
「そうです、落ち着きなさいお嬢さん。館内は全ての部屋に火災報知器は設置してありますしこの建物から一定距離には植物は飢えてませんから延焼も平気です。外壁も和田くんの友人の天才な問題児がつくった特殊な火災報知器が埋め込まれています」
 その機能は流石に知らなかったがこれでこの建物に火がついている可能性はないと言えるだろう。しばらくすれば消防が来るだろうし態々(わざわざ)面倒事を増やす必要もない。火事現場なんかに迎えるか、俺は部屋に籠るぞ!ってところか。
 だがそんなことを考えたのがいけなかったのだろうか?先程は破裂音がした。しかし今度はビービ―と何かのアラームが鳴り響く。秋元さん曰くそれは展示室の火災報知器の音のようなので今度こそ避難を始めることにする……この日、秋元さんには展示室に置いていた切手を全て焼失するという苦い結果が残ることとなった……
 
 
「で?なんで俺は容疑者の集まりからこんな捜査官の監視月現場検証なんてさせられてるわけ?」
「ふふっ。それはボクがたまたまこっちの視察に来てたからさ!優秀な駒は使うのがキングの役目でしょう?」
「幽愁な駒の間違いだろ……くそっ、これ終わったらさっさと帰せよな」
 あの避難の後、ニ十分程でようやく警察と消防が到着し、事件は収束するかに見えた……しかし俺は今とある警官に現場まで引き摺りだされていた。
 (ばん) (しん)()、先程秋元さんと話し合っていた時に出てきた元同級生である。顔は男とも女ともとれる端正な顔立ちで、スラっとした細身の体にショートカットの髪が映える同い年(三十路前)の美形である。正直な話こいつの性別を初見で見抜いたやつを俺はまだ知らない。何せ中学校に入学して二日でやれ胸にさらしを巻いて胸を隠してただの見事に鍛え抜かれた漢の裸体を目撃しただのという根も葉もない噂が錯綜したほどである。水泳の授業も全てサボタージュしたせいで、余程親しいか公的な書類でも確認するかした人でないとこいつの性別を知ることなどできないだろう。
「面倒だな……判、容疑者リストとかは見せるなよ。いらん面倒は避けたいんでな」
「そうか、まず一人目の容疑者は香山(かやま) 明人(あきと)、化学薬品とか扱ってる月島グループの幹部だ。もっとも燐寸とか蝋燭とかの照明関係担当みたいだけどね
「言うなっ!」
 これで面倒事から逃げられなくなったじゃないか!守秘義務怠ったこと密告しようにもこいつ相手だと揉み消されそうだし意趣返しもできない……
「さぁ、逃げられないことがわかったら早く手伝ってくれ。ほら、これが今回の事件の資料だよ」
 仕方ない、腹をくくるとしよう。そう覚悟を決めて容疑者のリストに目を通す。もちろん俺と命は除外するのだが。
 まずは判の説明にあった香山。こいつは……というか残りも全て切手愛好会とかいうのに入ってるらしい。この愛好会っていうのは秋元さん主催の団体で切手好きが集まって月に一度自慢するだけの集団らしい。持ち物で不信なものをあげるとしたら……コーヒー豆が沈んだ水槽だろうか。確かにコーヒー豆を浮かべることで豆の良し悪しを判断する方法はあるが、既にそれは秋元さんが終えてしまっている。
「判、このコーヒー豆の出所は?」
「確認はとってるよどうやら秋元元先生が今日売ったものらしい」
「水槽は持参ってことか?」
「みたいだね、検査の体験をさせてほしいと言われたらしいよ」
 なら水槽を持ってきても不思議じゃない……のか?まぁ良い、後回し。
 次は内藤(ないとう) 浩二(こうじ)中身は予備のガソリンだって?自殺志願者か何かかっての。喫煙者故のライターを持ってるのも怪しいが……展示室の火事には火力が足りないし、車の惨状からしてポリタンクも持ち出していないから可能性としても自分の車への失火くらいかね。、自動車メーカーの工場長か。最初の小火騒ぎはこいつの車が炎上。コーヒー畑の一部を巻き込んでから消火されたか……怪しい持ち物は……後部座席に溶けかけたポリタンク
「一応聞くけどガソリン持ち運ぶペットボトルとかなかったの?」
「香山氏の持ち込んでたニリットルのペットボトルくらいしか見つかってないよ。調べたけど中身は水。開封済みではあったけど燃料は持ち込んでなかったんじゃないかな」
「そうか……把握した」
そして最後……いや、なんでか秋元さんもリストに載ってるから二人か。まぁ秋元さんの情報はわかってるから飛ばそう。
 富士(ふじ)(おか) ()()。あぁ、どこかで見たと思ったらタレントさんか。怪しいものは特になし……他の容疑者が全員不審物持ってるとかえって怪しく思えてくるな……ただ証拠がなければ犯人と断定もできないわけだが。
「あ〜……殺人事件で容疑者が全員ナイフ持ってる気分だ。判、ちなみに被害額は?」
「富士岡氏は今のところ白だけどね……被害額なんて聞いてどうするのさ」
「秋元さんが容疑者に入ってるんなら切手にかけてた保険金とやらで儲かってんだろ?」
 被害者であるはずの彼が容疑者リストに載るなんてよっぽどである。俺の所に判の字で【不審者、コーヒー苦すぎて飲めない】とか書いてるのも気に食わないが秋元さんは判の恨みを買ってなかったはずである。あと判は無理せずココア飲んどけ。
「詳しくは言えないけど七桁前半ってとこかな。どうも保険金かけてたのは展示会の目玉だったエラーコード付の切手らしいよ」
「ん?そうなのか……ちょっと秋元さん以外の容疑者にこれ、聞いてきてもらえるか?その間にこの辺り調べてみるから」
 気になったことがあったので判を通じて警察に情報を集めてもらう。こういう時探偵って不便だよな、社会的信用度が違う。
「まずは展示室ってうわ〜真っ黒……」
 そして目に飛び込んできたのは一部が空いた防火シャッターに隠された黒一色の部屋である。切手の額縁どころか中の装飾までが、隙間から入り込んだのであろう炎に蹂躙された痕を残していた。
「それでこれがエラー切手の展示台か……って綺麗だな、おい」
 中央に倒れていた展示台を覗き込んでみると、この部屋で唯一黒以外の色を見ることができた。どうやら展示台の中には赤いマットが敷かれていたようだ。というのもこの展示台は丈夫だったのか中のマットが半分燃え残っていたのである。おそらく逃げる誰かがこれを倒した時の衝撃でようやく火が入り込むだけの隙間が作られたのだろう。
「そして燃え始めてからすぐに消防に消されたと……ん?これは……切手の破片か?」
 改めて良く見てみればケースの端に白い紙が挟まっている。四分の一しかないがこれを調べれば何かわかるかもしれない……と思って手を伸ばすと、指先で軽く押しつぶしただけで粉々に崩れてしまう。結局さらに半分になった破片のみを回収して監視の警官に渡す。睨まれた気もするが、焦げ跡もない紙が崩れるなんて誰が予測できるだろうか。
「いや、そんなに見られてもですね……確かに燃えカス無いようだったんでどこかにあるだろうと探しただけで……その……すんませんでした」
 無言の圧力に耐え切れず、思わず謝ってしまう。いや、非は俺にしかないんだけども。そんな自己嫌悪を始めた時である。
「ただいまァッ!」
 シャッターから響いた鈍い音と悲鳴の主に関しの警官が何故か震える。その衝撃で渡したかけら破片がとうとう視認できないほどに崩れてしまう。
「……一緒に怒られようぜ」
 監視の肩に手を当てて微笑みながら励ます。見るからに筋肉質なサングラスをかけた警官の顔が赤らむ……彼から距離を取るべきかもしれない。身の危険を感じてしょうがないのだ。
「誰さあんなところに風船置いた人……しかも妙に冷たいしさ」
「悲鳴でわかってたけどな……ガキかオマエは」
 ちなみに転んだのは判であった。こういうドジでいったい何人の男女が惚れてきたのだろうか。告白のために呼び出した女生徒が俺の遥か後ろで転んだこいつに全力疾走したのは忘れられない。
「……確認とってきたよ。やっぱりエラー切手以外のはたいしたことのないやつしかなかったってさ。あと痛い」
「冷たいんだろ、風船当てとけ。んで、痛み治まったら犯人捕まえんぞ」
 あいにくと小説の中の名探偵みたいに決め台詞はないんで締らないんだがな……しかもこれは結構な綱渡りだからなか……そうだ、カマかけ兼ねて俺の決め台詞を作ることにしよう。そうだな、ここはシンプルに……こう言ってやろう。
 
【犯人……アナタですね?
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