YKP

         蟲音

 ユニコーン。

 人は少なからず聖なるイメージを思い浮かべるのが普通だろう。

 足が速く気高い優雅な立ち振る舞い、輝くような鬣。そんな生物。

 今俺の前にいる生物もきっとその生物の一部なんだと思う。ほかに見たことはないが。ただし目の前のユニコーンはいろいろ違う。いや、全部あってるんだ。美麗な長い脚が生えていてさっきの走る姿はとてもきれいだった。鬣も美しく飛び散った汗も輝いて見えるほど。だが目の前のやつは…

「ヌ…ヌケヘン」

 スーツ着たユニコーンが電信柱に角が刺さって抜けないでいる。

 俺は一つ深呼吸してとりあえず状況を整理しようとした。生まれてきてはや三十一年、こんなこと予想もしてなかったが。

 わけがわからないよ!

 あー通行人がどうしていいか分からず見なかったことにしてるよ誰でもふつうはそうするけど。

「ヘーイ、ヘルプ!誰か助けてちょんまげ!」

 真面目に助かる気があるんだろうか疑問しか出てこない。

「ジャパニーズミンナちょんまげ聞いてたけどアレ嘘ダッタネユルサナイヨグリフォンのやつ!」

 友達がグリフォンとはなんとまぁファンタジーなんだろうか一分の一スケールのリオ○ウスを作ったアトラクションテーマパークもびっくりである。

 ところであいつのスーツ、なんとまぁ汗でびっしゃびしゃなんだがあれオーダーメイドなんだろうか?ユニコーン用スーツなんてあるわけないし大型犬用のスーツでも脚が太くて入らないだろう。人間用でもやはりたくましい脚が…ユニク○で売ってるやつだと悲惨なことになりそうだ。まぁ過程でオーダーメイドとして、もし破れたりしたら結構なお金がかかるんじゃないだろうか、ていうか店員はどんな気持ちで馬、もといユニコーンのスーツ作ったんだろう?足とか計測したんだろうか?

「ダレカー助けてちょんまげー」

 イライラしてきたので…

「大丈夫ですか?」

 声をかけてみた。2525動画にやってみたカテゴリに投稿しようかなこれ。異文化との交流ですよこれ立派な、ただこの状況で知り合いの女に「ねぇねぇ今どんな気持ちー?」って聞かれたら殺してしまうかもしれない。いかんいかん暴力は。路地裏で【自主規制】。

「オーウいい人よアナタアンガトサン!てへぺろ☆」

激しくイライラする。激しくイライラする。大事なことなので二回言いました。

「とりあえず私のボディ引っ張ってくださーい!PONPONPONと」

歌ってるやつの名前なんだっけきゃりーぱむ…ぴゃぬ…………噛みまみた☆

 とりあえず誠心誠意真心込めて引っ張ってみる。

「ふんぬらば!」

 足を地面に食い込ませるような勢いで力を込め、頑張ってみる。あぁ…抜けない。しっかり根元までめり込んでいて抜けない。すごい抜けない。全然抜けない。そういえば某ハムスターアニメでどかんにはまってて抜けない自分のことを君付けで呼ぶキャラクターがいたなぁ…

「す、スミマセン…」

「ん?」

引っ張りながらしょうもないことを考えていると角がぶっ刺さった四つん這いユニコーンは涙目でぼそりとつぶやいた。

「ドウセ体抱えらレて引っ張っテモラうナら女の子がヨカッタヨ…」

 俺は反射的にこいつのケツに蹴りを全力でいれた。計7発。

「イタイデスヨ!何スルデスカ?!ちょちょちょっと!ドコ行くデスカ?!」

「…」

 俺はその場を去った。後ろから何か言われてるが何も聞こえない。そう、何も聞こえない。

 

 次の日の早朝八時、眠気眼で会社に行く途中、少し遠回りしたら昨日のユニコーンのところに行けることに気づき俺はもういないだろうと思いつつあの電柱のある場所に向かった。

「がるるるぅ…」

 いた。

 目を血走らせて鳴き声間違えて足を痙攣させながらやつはまだいた。風流ですな〜。

 どこをどうしたらこんなに頑張る子になるんでしょうか?親がいい育て方したんでしょうね。ですがちょっとまっすぐに育てすぎじゃないでしょうか?ただこの目を見てこいつ草食とは思えない。処女しか乗せないらしいけどこいつ乗せた後食ってんじゃないだろうな…あ、性的な意味はないよ?決して。

「フゥ…フゥ…抜けろよいい加減…このクソが…」

 キャラがぶれるくらいキレてる…もう英語なまりが無い。

「留学生のみんな、日本語がうまくなる近道はきっと…」

 ふざけたことを言ってると全身が何かで刺されたような感覚がした。思わず振り返るとやつが真っ赤な目でこちらを睨みつけていた。

「おめえ…」

 やつの脚に力が入るのがわかる。

「ここここ、こんにちワン♪」

 なんかやばい気がしたので笑いを誘ってみた。

「殺す…殺す…」

 まずい…目がただでさえ恐ろしかったのに、火に油注いだらしい。俺がその場を逃げようと、後ろを向いて走り出そうとしたときやつはコンクリートの大地を震わすほどの声で叫んだ。俺はちょっとちびっていた

「逃げるなぁあああああああああああああ!」

 蹄を地面にめり込ますくらいの勢いでガンと地面を踏みつけた。その勢いでやつは角をへし折った。

 …おいおいおいいいいいいいいいいいいいいいいい!

 ただの馬だああああああああああああああああああ!

「UGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

まるで目の前に雷が落ちたような、まるで隕石が落ちてきたような、まるで富士山が噴火したような衝撃。

 今起きたことを簡潔に言うと…

 

ユニコーンの角が折れる

    ↓

目が異様なくらい発行する

    ↓

羽が生える(今ここ)

「ユニコーンが気合でペガサスになったあああああああああああああ!?」

 俺はもう隠せないくらい小便を漏らしていた。

                            続く

 

次回予告

ユニコーンの暴走を止めようと三十路の漏らしたおっさんの前に可憐な少女が現れる。

第三話

ペガサスvs魔法少女with漏らしたおっさん

次回をお楽しみに

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