僕らの距離

                     ナツメ


 

「おーい拓斗ー」

 誰かが僕の名前を呼んでいる。僕は目の下くらいまである長い髪を指で流しながら振り向く。僕を呼んでいたのは同じバスケ部の部員だった。

「今から部活だぞ? お前帰るのか?」

「ごめん。今日はちょっと駄目なんだ」

「お前が休みって珍しいな。まぁ監督と先輩には俺から言っといてやるよ」

「うん。助かるよ」

そう言って軽く手を振り僕は早歩きで学校を出た。向かう先は近くの駅。左ポケットには財布、右ポケットには時刻表と福井への道順を書いた紙を入れていた。

 

駅に着くと紙を見ながら、どの切符を買えばいいのかを確認してホームへと向かった。僕の通学は徒歩で電車を使うことは無い。だから、少し不安だったけれど、これから遥と会えるという期待が僕の胸をいっぱいにした。

 そう、僕は一年ぶりに遥と会える。そして遥に今度こそを好きと伝えるんだ。

僕の想いは胸の高なりと共に高まり、まだかまだかと電車を待っていた。


 

  〜一年前〜

僕と遥が出会ったのは小学校四年生の時だ。遥が親の仕事の事情でこの街に引越してきて僕と同じクラスになったのが出会いだった。遥は引越してきたばかりで友人も少なく彼女自身友人を作るのが得意ではないみたいで、一人で図書館にいることが多かった。僕も人付き合いが得意ではなく、当時はスポーツを、何もしていなかったので僕も図書館によくいた。

 そして僕らは、どこか似たようなものを感じたのか自然に惹かれあい、休み時間や放課後を共に過ごすようになっていた。お勧めの本を紹介しあったり、帰り道を冒険したりして帰ったりした。そんな僕らをクラスの連中は夫婦と言って茶化してきたりしたが僕は彼女の手を引き教室を出て行った。クラスの連中が騒ぎ終えたくらいに教室へ戻ればいい。それまでの間は少し気まずいけど、二人で図書館で過ごしたりしていた。

 この時僕は、これからこんな感じで遥と過ごして遥と同じ中学校に行って、これから先も共に過ごしていくのだと思っていた。遥もきっと同じ気持ちなんだと思っていた。

 だけど、僕らの幸せは突然崩れた。

 僕らが小学六年生になり中学校も同じところに決まり、これから始まっていくのだと思っていた時に、卒業式の一日前に電話があった。相手は遥だった。電話の内容は、お父さんの仕事の事情で福井に引越ししなくてはならないという内容だった。こっちで一人暮らしをすると言ったらしいが年齢も年齢で女の子一人ではとても無理なのは分かっていたので当然却下された。何とか残れないかと今日まで話ししたらしいが、やはり無理だったらしい。

 遥が悲しそうな声で話していたけれど、僕は突然なことで混乱していた。遥がいなくなるという事と、中学生活への希望と期待が絶望へと変わっていく事に言葉では表せれないような気持ちになっていて、耳に入らなかった。そして遥が電話の向こうで涙を流しているのに気づいたとき悲しいのが自分だけでは無いと分かり我に返った。

(一番辛いのは遥の方だよな)

「遥のせいじゃない。仕方がないよ。仕方ない……」

 その時僕は遥の悲しみには気づいたけれど、何て慰めてあげればいいのか分からなかったので、そういって受話器を下ろした。

 次の日の卒業式は遥と出会ってからの人生で一番暗い気持ちの日だった。初めての卒業式で周りの生徒は泣いたり中学校の話をしていたが、僕には、そんな事どうでも良かった。遥がいないのに楽しい訳がないじゃないか。

 卒業式が終わった後、教室を出ると遥が待っていた。僕は、何を言ってあげればいいか分からず立っていると、

「拓斗くんとの二年間楽しかった。手紙書くからね」

「あぁ、僕も楽しかったよ。とっても……」

他に出る言葉はなく僕らは最後の下校をした。僕らはずっと無言で歩きながら帰り、いつもの桜の木の下の分かれ道まで来た。分かれ道に着くと遥が口を開いた。

「それじゃあ元気でね。拓斗くん」

遥は笑っていた。その笑顔が何とも言えないような気持ちをかりたたせた。ここで好きと伝えたい。

「遥!」

 僕が勇気を出して遥の名を呼んだ時、遥は僕の唇に自分のものを重ねてきた。その時、心の底から遥を護りたい。大切にしたい。幸せにしたい。その言葉ひとつひとつが、とても深く広く感じられて、視界に入るものすべてが今までとは別世界のような感覚で写った。

 そして、遥は恥ずかしそうに顔を伏せながら、走って行ってしまった。僕は何を言えばいいのか分からぬまま彼女を見送った。

 いや、言いたいことはあったけれど何も言えなかったと言った方が正しいかもしない。

 僕が言おうとしていた好きと、今の言う好きでは、好きの重みが全然違う気がしたからだ。

 

 今の僕に遥を好きというには弱すぎる。僕は、強くなりたい


 

 その後、中学校に入った僕は強くなる為にバスケ部に入った。バスケ部の練習は噂通りキツかったけれど、遥の事を想うと頑張れた。部活は忙しく、気づけば一学期は終わり夏休みも練習ばかりで夏も終わりを迎えかけていた。

 そんな僕の生活に変化があったのは、そんな時だった。

一通の手紙が僕の家に来た。差出人は、川崎 遥……そう、遥からだった。内容は僕が元気にしているか。福井がどういう所か。自分が中学校でどういう生活をしているのか。などだった。僕は手紙がきた嬉しさに何回も内容を読み返した。読みすぎて内容を覚えるほど読んでいた。そして、慌ててノートの一ページを切り離し手紙の返事を書き始めた。そして僕らは半年くらいの間、文通を続けて、一ヶ月ほど前に遥が福井に誘われた。僕は少し迷ったけれど勇気をだして返事をした。一ヶ月後に福井に行きます。ただそれだけを書いて送った。今度こそ伝えるんだ。この想いを

 

 僕は遥から送られてきた福井への行き方を見直しながら席に座っていた。

(次から二つ目の駅を降りて、四時の電車に乗り換えて、その次は……)

僕は間違いが無いように何度も見直し、腕時計の時間を確認しながら待ち合わせの八時に着くように慣れない電車を乗り継いだ。


 

 電車に乗ってから約3時間たち、遥のいる福井まで後三十分で着こうというところにまで迫っていた。

(一年ぶりに会える。次こそちゃんと伝えるんだ)

 近づいていくたびに季節外れの雪が見えだんだん寒くなってきた。けれど胸が高ぶってた僕は寒さなど全然気にしなかった。

 

 福井駅に着くと、大阪とは違う冷たい風が身にしみた。

(寒いなぁ……遥は来てるだろうか)

 自分の腕時計を見ると時刻は七時五十一分。

(まだ時間じゃないな。寒いし待合室で待とう)

 

 それから何十分かしたけれど、遥はまだ来なかった。

(遥……何かあったのかな)

それから何時間も僕は待った。時間を見れば十時半……そろそろ終電が無くなろうとしていた。待合室には暖房があったけれど普段寒さに慣れていない僕の体は、かなり冷えていた。

(お腹すいたなぁ……遥……)

 寒さと不安で押しつぶされそうになっている時、待合室に誰か入ってきた。

「ッ遥!?」

 遥が来たと思ったけど駅員さんだった。

「今の電車で終電ですけど大丈夫ですか?」

「はい……ありがとうございます」

そして僕は遥に会えないまま終電に乗った。


 

あれから遥に手紙を出しても返事は無かった。また会いに行けば良かったのだけれど会うのが怖くて、いけなかった。

(遥……僕の事嫌いになったのか。それでも返事ぐらいだすはず。なら、どうして……)

 僕は行くあても無いまま途方に歩いていた。気づくと遥と最後に出会った桜の木の下にいた。

(あの時、僕が強かったら何かが変わっていたのかな)

 春が近づいてきているのか、桜の木から芽が出ようとしていた。僕は桜の木を見上げながら心に思っていることを口に漏らしてしまった「遥。会いたいよ……」

 春の、ほんのりと暖かい風が僕の声を高く飛ばしていった気がした。

  〜二年後〜

僕は近くの高校に入学し、生徒会に入った。少しでも何か新しいことに挑戦したかったからだ。生徒会の仕事は大変だったけれど頑張った。

「拓斗くん!前の資料できた?」 

「はい恵美さん。生徒会室においています」

「ありがとう! それじゃまた後でね!」

 相変わらず人付き合いは苦手だったけれど、仕事のおかげで少しは人付き合いに慣れてきた。毎日が忙しいせいで、遥のことを考える余裕はなくて、少しずつ記憶から薄れていこうとしていた。そして遥への気持ちも気づかない間に消えていこうとしていた


 

 気づけば高校生活は終盤を迎えていた。生徒会の仕事も終わり、進路も決まり残るは三日後の卒業式だけだった。

(高校生活……もう終わりか)

 そんな事を考えながら僕はいつもの帰り道を歩き気づけば、桜の木の前まで来た。 

「桜の木……か」

桜の木を見ていて、ふと頭に浮かんだのは遥かのことだった。

「遥……」

 僕はつい口にしてしまっていた。

(遥。久しぶりに口にした、とても懐かしい響きだな。頑張ってるのに、遥にはまだ遠いのかな)

「拓斗くーん!」

 僕が帰る道とは逆の道から誰かが呼んできた

「はるッ!……恵美さん」

 一瞬遥と思ったその人物は恵美さんだった。今は……僕の彼女。

 

 遥に会えない日が、一日立つごとに僕の気持ちを諦めへといざなっていった。恵美さんは、そんな僕を、日に日に駄目になっていく僕を支えてくれていた。僕は、思春期ならではの興味と恵美さんの優しさに甘え告白されたので付き合った。

 しかし、付き合ってから、どれだけ一緒に過ごしても、僕の気持ちは満足することはなかった。

 どれだけ一緒に愛そうとしても、どこかで遥の事を想っている自分がいた。何回も恵美さんと別れようとしたけれど恵美さんが僕に抱いている気持ちは本物で、今までの迷惑を考えると言いづらくて言えなかった。何より僕自身一人になるのが怖くて、まだ甘えていたのかもしれない。

「今から家に来てご飯食べない? 拓斗くんの分も買っといたんだ!」

「いえ、母さんがご飯を作ってくれていると思うので……」

「そんな事言わずに来てよー、明日休みだし、家泊まっていいから」

 僕は断りきれないと思い家に行った。泊まるつもりは無かったけど、成り行きで朝まで過ごした。

 そして僕は、この時から少しずつ何が大切で何を護りたかったのか、分からなくなってきていた。それが何だったのか考えるのも面倒くさくなってやめてしまった。

 そして、段々と底の見えない暗闇に落ちていく感覚がした。

 

   〜三年後〜

 僕は大学を途中で中退した。大学に行けば少しでも未来に希望を持てると思い、通っていたけれど何も変わらず講義も面倒になりサボリ始め、気づけば出席日数が足りなくなったので必然と大学をやめた。

 途中でやめたことにより親からは間道されたので恵美の家にいすわった。恵美の家に住んでいる時の僕の生活は酷いなんてもんじゃなかった。毎日起きては酒を飲み、テレビを見て、お腹が空いたら、いつも机の上に置いてある千円でカップ麺を買って生活していた。生活費は全て恵美の稼ぎで成り立っていた。恵美は銀行員だったので稼ぎはよかった。  

 しかし、若い銀行員の稼ぎだけで二人分の生活をずっと支えるのは厳しく、恵美に働いて欲しいと言われた。そして、一ヶ月に一回のペースで恵美に結婚してほしいとも言われていた。けれど、結婚とか、そういうのは考えていなかった僕は、その度に激怒し恵美に暴力をふるった。そして、とうとう恵美にも呆れられて別れようと言われ僕は、とうとう一人になった。

 

ある日、母親から僕宛に手紙が届いたと連絡が入った。正直どうでも良かったけれど、その日は行くところもなく、やる事もなかったので二年ぶりに実家へ帰った。

 外から見た実家はとても懐かしく感じた。もう二度と帰ってくることはないと思っていたこの家に帰ってきてしまった。久しぶりに開けた家の扉は昔と違い、少し重く感じた。あの頃は毎日何も考えずに開けていたのに……

(父さん、いないといいけど)

 中に入ると母さんがいた。

「母さん。ただいま」

 僕は母親と話しているだけなのに少し緊張した。

「おかえり。拓斗」

 久しぶりの母さんの声は少し優しく感じた。

「手紙って誰から?」

 僕が無愛想に聞くと母さんは何も言わず、手紙を渡してきた。


 

藤原 拓斗様へ。差出人は、川崎 遥……

そう、遥からだった。

「母さん! これ遥から!」

「中開けて見てごらんなさいよ」

 僕はまるで子供の頃サンタさんからのプレゼントを開けるように急いで手紙を取りだした。

 手紙の内容は何故九年前遥が来れなかったのか、どうして手紙を返せなかったのかが書かれていた。

「ずっと、記憶喪失だったなんて……」

 九年前、遥は僕との待ち合わせに遅れそうになり雪の中自転車で出かけたらしい。スピードはあまりでていなかったみたいだけど地面が悪くて止まりきれず車に……。一命は取りとめたけれど頭の当たり所が悪く九年間記憶を無くしていたらしい。僕からの手紙は記憶が戻るまで遥の母親が全て預かってくれていた。手紙を読み終えた時、目に溜まっていた熱いものが一気に溢れてきた。

「良かった……死んだとか僕のこと嫌いになったとかじゃなくて、無事で本当に良かった」 

 僕が急なことに涙が止まらない中、母さんは優しくハンカチを渡してくれた。渡されたハンカチで涙を拭うと懐かしい匂いがした。忘れていた家族の匂いだった。僕はその優しい匂いにも涙がでてきて何度も涙を拭った。

 そして、僕はこのとき自分の行いが、どれだけ迷惑をかけていたのか気がついた。高校生活の中で、頑張っていれば、いつかまた会えるという気持ちを大事にしながら頑張ってきていた。しかし、どれだけ頑張っても遥に会えない。慣れない人付き合いや遥への気持ちが気づけばストレスになっていた。それに気づいた時、今までやってきた事が全て馬鹿らしく思え僕は心を閉ざしてしまった。 

 そして、心の癒しを求めた結果が今の僕だ。

「ありがとう……母さん……」

ありがとうと口にするのは何年ぶりだろう。僕はこの言葉に少し胸が暖かくなったのを感じた。涙を拭い終わり落ちた便箋を拾おうとすると、もう一枚手紙が入っていた。

 もし、今でも私を覚えていてくれているなら四月三日、三時に桜の下で待っています。

                       遥


 

(遥が僕に会いたいって! 日にちは、四月三日……って今日じゃないか!)

 急いで時計を見ると時計の針は六時を刻んでいた

(やばい……時間が)

 僕が戸惑っている中、隣で手紙を呼んでいた母さんが慌てて財布からお金を抜き僕に渡してきた

「後でちゃんと返しなさいよ! さぁ早く行かなきゃ間に合わないよ!」

 母さんは僕がどうしたいと思っていたのか、僕がお金がないのも全て見透かしたみたいだ。本当、親には敵わないんだな……

「母さん。僕色んな人に言いたいことが沢山あるんだ。でも、今は一番届けたい人のところへ行ってきます」

「そうしなさい。気おつけて行くのよ」

 僕は急いで玄関に向かい外へ飛び出した。外に出ると、父さんがいた。何て言えばいいか迷っている僕に、

「急ぐんだろ? 早く乗れ」

「ありがとう、父さん……」

何も言わずに車に乗れと言ってくれた。再び流れ出そうな涙を必死にこらえ車に乗り込んだ。

「いってきます!」

「いってらっしゃい」

 母さんが優しく手を振りながら見送ってくれた。家から送られるのはいつぶりだろう……でも、悪くないな。


 

 父さんに送ってもらったおかげで、桜の木の近くのコンビニまで送ってもらった。

「ありがとう。送ってくれて」

 少し気まずかったけれど勇気を出してお礼を言った。

「女は待たせるとうるさいからな。母さんもそうだったしな」

「えっ、あの母さんが!」

「そうだ。母さんだって一応女なんだしな」

 父さんが、そんな事を言うのも驚いたけれど、父さんが少し笑っていたのが更に驚きで嬉しかった。

「さぁ、こんな話はどうでもいい。早く行ってこい」

「ありがとう父さん。また今度二人で話をしよう」

「あぁ。楽しみにしているぞ」

「それじゃ、いってきます」

 僕はそう言うとまっすぐ約束の場所へ走っていった。走っていく中、僕は家族の温かみというものが、少し分かった気がした。


 

 約束の場所に着くと桜の木が夕暮れと重なりとても綺麗で辺りを見渡すと桜のカーテンができているようだった。しかし僕の視界には一番捉えたい人が入ることはなかった。

「やっぱり、間に合わなかったか」

 高ぶっていた胸の高鳴りが冷めていくのが分かった。そして、また伝えられなかった事に、これが僕らの運命なのかと絶望した。

「僕らは、いつも近くにいると思っていたけれど本当は、遠い距離があったのかな……だから、すれ違って一緒に歩けないんだ……」

「それなら、今から一緒に歩いていこうよ」

 僕は、その懐かしい声の方を振り向いた。そこには、最後に見たときより髪が長くなっていて眼鏡をかけている遥らしき人がいた。

「はる……か?」

「久しぶりだね。拓斗くん」

 僕は遥と分かった瞬間、こちらへ引き寄せ抱きしめていた。ずっと、抱きしめたかった。そして遥の温もりが凍っていた僕の歯車をとかしていった。

「本当に……本当に良かった。遥、僕はあの日からずっと……」

 ずっと伝えたかった。ずっと届けたかった。いま伝えるんだ。

「遥。僕は君のことが……」

 僕の声は遥によって塞がれた。そしてあの日と同じ忘れられない感触がした。

「また、言えなかった……」

 言えなかった事に対して少し落ち込んでいる僕に

「ちゃんと届いているよ。拓斗くん。私も好きだよ」 

 その言葉が嬉しくて遥の手を取り、その場を後にした。

僕は帰って行く中、これから色んなことが始まっていくことに、わくわくしていた。

(ここが僕らのスタートラインだ)

 そう思った僕の背中を春の風は、心地よくおしてくれた。


 

 〜一年後〜

 あれから僕は、安いボロアパートを借りて一人暮らしを始めた。母さん達から家に帰って来ていいと言われたが、そこはあえて断った。僕自身の手で何とかしたかったからだ。職業の方も苦労はしたけど職に付くことができた。高卒と言う理由や大学中退ということもあり、なかなか受け入れてもらえなかったけど、近くの土木業の社長が事情を分かってくれバイトとしてだが働かせてくれた。最初は久しぶりの肉体労働で、とてもキツくて覚えることも沢山あり怒られてばかりだった。そのため何度も挫けそうになったけど一度折れた人間は強いのか頑張ることができた。そして一年くらい立つと仕事を、ある程度こなすことができるようになり、社長に正式に社員として認められた時は、とても嬉しかった。一年前の自分から、ここまで変わることが証明されたような気がしたからだ。

 そして今は……

「拓斗くん! 朝ごはん早くしないと遅刻しちゃうよ」

「あぁ、すまない。今いくよ」

遥と二人で、あのボロアパートで住んでいる。いや二人ってのは少し違うかな。そう遥のお腹には僕たちの新しい命が宿っている。

僕はご飯を食べ終えて玄関へ走った。そして見送りに来た遥のお腹を優しく触った。

「それじゃ、いってくるな薫」

生まれてくる子供が男の子でも女の子でも大丈夫なようにどちらでもいける名前をつけた。

「気をつけてね。拓斗くん」

「あぁ、いってくるよ。遥」

二人に手を振り、僕は外へと駆け出した。


 


 

 【あとがき】

こんにちわ。そして初めまして。七月より文芸部に入部した一回生のナツメです。漢字だと「棗」なのですが一文字だと寂しかったのでカタカナにしました。作品は最後まで呼んでいただけたでしょうか? もう読んでいると恥ずかしくなる自己満処女作ですが最後まで書けてよかったです恋愛を書いてみました。私自身は恋愛というものに疎いのですが、大学祭明けはカップルも多いだろうと思い、恋愛を書いてみました。あと作品のテーマですが、「距離」をテーマにしました。  

始めの展開では拓斗と遥の近づく距離。分かれの所は突然縮まる二人の距離と離れていく距離。高校・大学では、もう戻れなくなるくらい離れていく距離。大人ではお互いに距離を感じない距離。と言う形で作りました。少し話がそれますが、始めの頃は全然違う作品を書いていました。テーマは「時間」です。しかし、書いていくうちに「時間」ではなく「距離」をテーマに書きたいと思い急遽書き直しました。(少し裏話をすると「時間」は十一部構成になってしまい、とても大学祭号では無理だったという話もあったり、なかったりとか……←)

まぁ、そんなことは置いといて、主人公の話をしていきたいと思います。主人公の拓斗は、これと言って主人公設定を持っているわけではないですが、人一倍物事を考えやすいという設定にしてあります。後、「僕は」と少し自己主張の激しい設定にもなっています。どうして拓斗をそういう設定にしたのかと言うと、主人公なのに普通で、でもどこか普通とは違う。そんな主人公にしたかったからです。恋愛だけど、通常では、なかなか有りえない恋愛。遥に関しては、これも同じで、ありきたりの同級生という設定なのですが、少しヒロインなのに普通のヒロインとは少し違うようにしました(遥に関しては登場シーンの問題もありわかりにくかったかもしれませんね……)後、この二人の設定自体が周りとの「距離」をだしているつもりでした。後は、若い少年の悩める恋心や、挫折、家族の暖かみなどをいれてみました。文字が足りずに伝わりにくい事ばかりだと思いますが、処女作は「距離」にこだわって思ように書かせていいただきました。

最後になりましたが、次回は、まだジャンルすら決まっておりません。「時間」の続きをするか、もしくは全然違う作品を書くかもしれません……ですが、機会があればまた出会うかもしれません。その時は、暖かく見守ってください。長くなりましたが、素人の作品に、ここまで付き合っていただきありがとうございました。


 

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