Preparedness

                                  ナツメ


 まだ、外は真っ暗。冬の朝は夏と違って朝六時になっても太陽は顔を出さない。凍えるような寒さの中、夜勤明けの僕は右手にバイト先で買ったコーヒー。左手はポケットに忍ばせ寒さと眠気をこらえて帰っていた。
「朝なのに真っ暗だな……」
 こういう暗闇で静かににいると、つい自分を見つめ直してしまう時がある。
 将来のことや、これからのこと。
 授業も真面目といえば真面目に受けていて、特に嫌なことや、不自由なことはない。それなのに少し不安になってしまう。
「寒いなぁ」
 暗闇に出る僕の吐息は息は白かった。
 何もないからこそ怖い。分からないからこそ怖い。その恐怖から逃れたくてにげたくなる。
「はぁ」
 ため息をついていた。ため息をつくと幸せは逃げてしまうらしい。勿体無いことしたかな……。
 そう思いながらも僕はまたため息をついてしまっていた。自分にあきれながら、僕は飲み終えたコーヒーを近くのゴミ箱に捨てにいった。

歩き始めて十分くらいがたっただろうか。僕は眠たい目をこすりながら歩き続けていた。
「はぁ……」
 大きくため息をついてしまっていた。いっぱい幸せを逃してしまったかな。
 何もないことが本当に不安になる。いつもどおり過ごしているだけなのに、何もないことが怖くなるときがある。自分が気づいていないだけであって、本当は何かが起きているのかもしれない。それは、自分に自信がないからかな。
 お金を稼いで税金を払って、自分の携帯代や食費……。
 このままの自分で幸せになれるのか? できるのか?
今考えても仕方がないし、考える暇があるなら学ぶべし。頭の中では もう答えなど分かっていたのだ。それでも、どこか覚悟がない。そんな自分に情けなくなる。
 僕はまたひとつため息をついていた。
 
 家まであと半分くらいの距離まで来た。
 空は少し明るくなってきたが、未だに周りには人など誰もいない。自分だけこの世界に閉じこめられたかのようだった。
僕はバイト終わりというのに、変に考えすぎて疲れていた。
「男でこれはめんどくさいな」
 僕自身こういう時は、嫌気がさしている。だから、これを人前でださないように努力はしている。これもそうだ。分かっているのに考えすぎるとこうなる。
「ふぅ」

歩き始めて少し明るくなった気がする。
僕は空を見上げてみた。空なんて普段見ているもので、いつ

も通りのものだと思っていた。太陽が昇って空は青色、雲は白色。そんなものだと思っていた。

空を見上げて、数秒。僕は声がでなかった。いや、一人だから当然か。言葉にできなかったと言う方が正しい。

見上げた空は、さっきまでの僕の常識を一瞬で消し去った。いつもみる青色ではなく深い海のような紺色で、遠くの山奥からは瑠璃色の光が漏れていた。何度かテレビなどで、見たことがあった景色かもしれない。普段なら綺麗なんだろなで終わってしまっていた。だけど、自分の目で見る空は違い、空の広さと色の深み、黄金のような輝きを放つ太陽と光雲。もう少しで山奥から出てきそうだった。
「綺麗だ……」
 ようやく僕の口からでた言葉はその一言だけだった。自分が数分落ち込んでいる間に真っ暗な空は変わっていた。その空を見た僕は、さっきまで悩んでいたことがちっぽけに感じていた。
空は真っ暗だったのに、太陽のおかげで明るくなれた。
 人間もそうかもしれない。一人の方が楽に生きていけるかもしれないが、それは寂しいさっきまでの空と同じだ。その、寂しさも合わせてこの空だけど僕は今の空の方が好きだ。僕はさっきまで考えていた自分にだんだんと腹がたってきた。
 答えなんて分かっていた。ただ、自分に酔っていて覚悟がなかっただけだった。 
「ふぅ……。女々しい自分終わり!」
 自分に苦笑し、僕はまた歩き始めた。
 冷たい風が僕の背中を押す。雲は流れ太陽は山頂からその輝きを精一杯見せる。紺と瑠璃色で交りあった空は、これまた違った美しさだった。


家に到着し、お風呂に入って歯を磨く。

「よし、寝るかな」
 もう眠気も限界をこえており、布団の柔らかさが僕を優しく包んでくれた。
 眠りにつこうとして意識が遠くなってきた時、携帯に一通のメールが届いた。

「……ん?」
こんな時間にメールか。

そのメールをみた後、僕は少し笑みをこぼしながら返事をして、寝ることにした。
「……お休み」
 特に何でもない朝だったと思うけど、何かが変わった気がした。 

                                             fin

《あとがき》
はい。今年もよろしくお願いしますナツメです。

いつもながら部誌の完成はギリギリでした……(二限目)

次こそは、一日前にはダシタイトオモイマス……(察し)
今回の作品が二回生として最後の作品でございます。この

作品のコンセプトは覚悟でした。タイトルも覚悟をそのまま英

語にしたものです。

この作品で 一番かきたかったのは景色です。朝早く帰る時

の、暗い空から少しの間でどんどん変わっていく空。普段みるものとは違い、まるで別世界にきたかのような景色。そんな、空をかきたいと思いました。これは、僕自身が景色を見るのが好きという理由や、お寺などそういうところに出かけてみたいという趣味からきました。

主人公に関しては、それを眺めていたら何かに気付く主人公。普段なら人と人とのかかわりから大切なものに気付く。という作品になっています。

今回も初めはそういう作品になる予定でした。しかし、書いているうちに自分自身で気付くのもありだなと思い、この作品になりました。

まぁ本当は、一人の力ではなく、自分を支えてくれるものや環境。そういう出会いがあってこそ、この主人公は気付けたのだと思います。

そういうところから、今回の作品は僕にとって新しいスタイルへの挑戦になったかなと思います。来年のこの時期は、どんな小説を書いているのかは分かりませんが、新しい発見をしたり、挑戦したりできたらいいなと思います。
作品に関してはこのくらいにしておきましょう。 

残りのページで軽く雑談を。今年の抱負は皆さんお決まりですか? 僕は「健康第一」です(笑)

もう二十歳を超えたので、そろそろ、気にしていかないといけないなと思います。朝起きるのが辛かったり、バイト終わった次の日は少し長く寝てしまうなど、体力落ちてきたなと痛感しました……。なので、久しぶりに一回運動したいな〜と思いながらも、もう後期が終わろうとしています(笑)

後期が終わるということは、もう少しで自分が三回生になるのだなと感じます。去年のちょうどこのくらいの時期に僕は、来年をどんな気持ちで迎えるのだろうか。と考えていました。副部長をやって、まだ出会っていない後輩たちとどう過ごしているのだろうか。どんな気持ちで、四回生の先輩方との最後の思い出になる部誌を、作っているだろうと考えていました。そして、来年は来年でまた別の気持ちで部誌を書いているのだろうなと思いました。先輩方との思い出や、学んだこと。それらを大切にしながら、僕は三回生になります。僕と初めて出会った時の回生ですね。僕が入部した時、すぐに打ち解けやすいように話しかけてくださって、とても嬉しかったです。

先輩方が沢山残してくれたように、僕も何かを残せるような先輩でありたいと思います。

これ以上は重たくなるので、この辺で終えておきます。

最後に、ぜひ、いつでも部室に遊びに来てください。お待ちしています。

                       文芸部二回生 ナツメ

《掲載作品》

「僕らの距離」2012『若菜』 大学祭号

「メモリー・オブ・オーバーライト」2013『若菜』 2月号

「ワンステップスタート」2013『若菜』 5月号

「俺と黒猫のファンタジア」2013『若菜』 7月号

「続・俺と黒猫のファンタジア」2013『若菜』 大学祭号

「Preparedness」2014『若菜』 2月号

「ワンモアタイムワンモアチャンス」志学2013年号 

「Grou Up」志学2014年号

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