ワンステップスタート                                         ナツメ

 

春……それは、始まりの季節、出会いの季節、別れの季節。様々なスタート地点だと思う。それは、この僕も例外ではない。 

そう、今日は大学の入学式だ。  

入学式は長い学長の話を聞き、ずっと座っていたためか腰が痛い。腰は痛かったけど、僕はこれから始まる新たな生活にワクワクしていた。その反面少し不安もある。友達ができるのか、大学ってどんな感じなのか、単位とれるのか、彼女とかできるのか、そして就職できるだろうか……。 不安と楽しみを胸に抱えながら僕は体育館をでた。後はオリエンテーションのみで僕は指定された教室へ向かった。 その途中、目の前にたくさんの人ごみが見えた。たくさんの部活動団体が勧誘をしていた。僕もいくつかの団体にチラシを渡されたけど、今までクラブに入ったこともない僕に、勧められてもどうしたらいいか困る……。僕自身クラブに入りたいとは思っているのだけど、中高と部活なんて入っていなかったため何もできないし。大体、大学で入っている人は元々所属していた人とかばかりだと思う。そんな中僕みたいな帰宅部が、入っても仕方がない。と、入学早々情けないことを、考えながら歩いていると……。

「!」

突然視界が変わり、僕の世界が暗くなった。まるで、この世界の闇に連れて行かれた気分だ。

「大きな木……だな」 

上を見上げると、そこには大きな木があり、その木は辺り一面を葉の影で覆っていた。 僕は、その木を見て悩んでいたものが全て小さく見えた。

「部活入ってみようかな……」 

せっかく大学にきたのだし頑張ってみようかな。春風が僕の背中を押してくれた気がした。ここが、僕の新しいスタート地点。  交流旅行と履修登録が終わり、授業が始まった一週目、早速僕は部活に入ろうと思い、探したのが軽音部。ギターを弾いて歌ったりしながら、色んな人に見てもらえたら、恰好いいだろうし! しかも、最近は女の子だけで、グループを作って軽音をするくらいブームがきているみたいだ。女の子も多いならこれは、モテるチャンスかも……。 僕は期待と夢と下心満載の妄想とともに、軽音部を探すことにした。入学した時にもらえる部活動紹介の冊子がある。だが、そこで見つけた軽音部には大きな弱点が。と、いってもそれは僕にだけど……  

(入部費用1万円、楽器は持参)

 入部費用は、アルバイトをしていない僕には、とても高い。楽器も持っていないため、とてもじゃないけど足りなかった。  

ならば、軽音部を諦めて、スポーツ系に挑戦してみよう。バスケのサークル程度ならそこまで上手くなくても大丈夫だと思うし。 華麗なドリブルテクを駆使してレイアップ! そしてブザービートでスリーポイントシュートを決めて逆転。まさに青春って感じ……。だと、体育館をのぞくまで思っていた……。 万年帰宅部だった僕は、噂程度にしか聞いたことがなかったけど、これがスポーツ系独特のノリか……。 中学時代、僕はスポーツ系の連中にいじめられていたことがあり、スポーツ系の人には抵抗があるため、入部することを諦めることにした。  早速、二つの部活が自分にむいていなかったことに、憂鬱になりながら歩いていると、

「……!」

後ろから何かに押されて体のバランスをくずし僕は床に倒れた。一瞬何が起きたのかわからなかった。そして、前を見るとそこには男の人が申し訳なさそうに立っていた。「悪いな。急いでいて……怪我はねぇか?」 目の前には背が高く、声は甲高く、髪を短く切りそろえていて、歳は僕と同じくらいの男が、心配そうな眼差しをこちらに向けていた。「おい、大丈夫か?」 ずっと座ったままで彼を眺めていた自分に気づき、すぐさま立ち上がる。

「だ……大丈夫ですよ」 

友達の少ない僕は、少し緊張していた。ここで勇気を持って会話を続けてみたら友達になれるかな……。 そんなことを考えているうちに、彼は手に持っていた冊子をカバンに戻し、どこかへ行ってしまった。 あぁ、遅かったか。けれど、急いでいたみたいだし、元々話をする勇気なんて自分にはなかった。ただ、前に進めそうだったのに立ち止まったことが悔しかった。 〜それから、僕は色んな部活を見学してみたが、なかなか自分にあった部活に、出会えなかった。部活に入らなくても就職はできる。そう思ってきていた。友達だって、高校の連中だけでいい。大学は勉強をするとこなのだから……。たったの四年過ごすだけだし、別にいいかな。そんなことを思っていると一つの教室から声が聞こえた。

「は〜い。そろそろミーティングを始めたいと思います」

 中から声が聞こえ、それに応えるかのように大勢の声が聞こえた。ドアを見てみるとそこには、 文……芸部? 文芸部って詳しくは知らないけど、小説を書いたりするところだっけ。中からは楽しそうな声が聞こえる。少しだけ中を覗いてみようかな……。僕の手がドアノブへと伸びる。だが、その手がドアノブを回すことはなかった。 今日は五月二十一日。もう、今から入部するのは遅いと思った。みんな四月から通い始め、もう、仲良くなっているだろうし、今から入っても一人浮くだけだ。ドアノブからそっと指を離し、教室前を去っていった。 それから特に行事もなく、僕はただ平凡に大学生活を送っていた。朝起きて、満員電車に揺られながら大学へ行き、講義を受けて終われば、また電車に揺られて帰る。家に帰ってからは部屋にこもって、ゲームをするか本を読む。それだけの、怠惰な毎日を送っていた。もう、部活の事や青春だとか何も考えず、同じような日々を過ごしていた。 〜だんだんと暑くなり、一時間に一回は水を飲みにいく季節がやってきた。お昼休みになって、僕はいつも通り食堂に向かおうとしていた。いつもと変わらない。そう思いながら歩いていた。蝉のけたたましい鳴き声が聞こえ、夏の暑い日差しが僕を照らしている。日陰に入ると涼しげな風が少し吹く。僕の視界は一瞬暗転した。

「……なんだったんだ」

 上を見るとそこには、あの時の大きな木があった。そう、変わりたいと思いスタート地点にしたあの木が。その木を眺めていて僕は、あの時ミーティングをしていた部活の事を思い出していた。あの時、ミーティングしていた教室のドアを開けていたら僕は今どんな気持ちでこの木を見ていたのだろうか……。

「……」 

僕は無言のままその木を見つめて、問いを投げかけてみた。

「今でも、間に合うかな……」

その日は、暑くて、風なんて殆どなかった。

「木に話しかけるなんて、僕どうかしているよ」 

 

木が答えるわけがない。

バカバカしくなり、その場を去ろうとしたその時、一枚の木の葉が落ちてきたのであった。 ただの偶然だったかもしれない。いや、むしろ偶然でしかない。だけど、そう思っても僕の足は自然と食堂ではなく、あの時のミーティグのあった部屋へと走り出していた。どこの教室だったのか思い出しながら、全力で駆けた。何故、急に入りたいと思ったのか、僕自身イマイチわからなかった。だけど、あの時ドアノブをどうして回さなかったのか、勇気をだしていたら、少しは変わったかもしれない。挑戦せずに最初から諦めていた事を、ずっと後悔していた。それだけは分かった。 全力で走った為、息は上がっていた。大学に入ってまともに運動していなかったからな……。ドアには、あの時と同じミーティング中のポスターがはられ、中からは人の声が聞こえる。僕は手をドアノブへと伸ばした。だけど、どんなに覚悟していても、いざという時に人は覚悟ができないものだ。でも、今回は違う僕はドアノブを回し、新たな世界の扉を開けた。

 

 

「あいかわらず大きいな……」

僕は、あの時の大きな木の下で、新入生を勧誘するために看板を持っていた。

あれから約半年、僕は二回生になっていた。

 暖かい春風に吹かれながら、楽しげに歩いていく新入生達を眺めていると、遠くから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、僕を遠くから指差して笑う背の高い男がいた。その人物が誰なのかは、声ですぐ分かった。アイツも同じく勧誘中みたいだ。 僕は後ろを向き再び木に問いかけてみた。

「今、僕はあの時と違う気がする。あれから一歩前にすすめたよな?」 

その言葉に応えるかのように突風が吹き、木の幹が揺れる。

 

「……」 

 

僕は乱れた前髪を整えて、一歩前へ進んだ。

 

 

 後書き    

 ここまで読んでいただきありがとうございます。まずは、一回生のみなさんは、はじめまして。後書きが本編で有名なナツメです。二回生で学科は日文です。僕が入部したのは去年の七月くらいです。では、僕について簡単に自己紹介をしていくと、 好きな小説ジャンルは恋愛、ファンタジー。最近は伝勇伝を読んでみます。好きなアーティストはBUMP OF CHICKENです。まぁ、こんなもんで僕がとういう人間か伝わったと思ってます←  では、作品について少し語らせていただきます。先に言いますがこれは、フィクションです。また、舞台も特には決めておらず、大学なら良かったです。普段は恋愛物を書くのですが、今回は友情ものです。間違ってもナツメが書いたんだし恋愛物とか考えないでくださいね。相手は男ですよ!←  この小説のコンセプトは「始まり」です。自分の「入学」したときや、「入部」の時を思い出しながら、あの時入っていなかったら、僕はどうなっていたのかと思って作りました。今、思うのが、七月からの入部で、合宿前というのに勇気を持って入部してよかった、と。良い先輩、面白い同級生。色々と大切にしたいものが増えたな、みたいなことを思いながらこの作品を作りました。 

それでは、次回会いましょう。         ナツメ 

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