続・俺と黒猫のファンタジア   

                          ナツメ

 

◆プロローグT 前回のあらすじ◆

 俺の名は黒沢(くろさわ) (のぼる)。とある地方の大学に通っている大学二回生だ。前期も終わり、教員を目指している俺は夏期講習へ向うところだった。その途中、時間がギリギリになってきたため近道に裏道を通っていると奇妙な体験に遭遇した。

 終わらない路地裏。空間を呑みこみながら迫り来る黒いナニか。もう終わりだと思ったその時、目の前に首に赤いリボンをつけ、金色の怪しい瞳をした黒猫だ。

そしてその黒猫の体から現れた漆黒の闇とともに俺の意識はとだえてしまう。

目が覚めたとき目の前にはさっきまでの路地裏はなく広がる緑の大地、空には月が二つとまるでファンタジーの世界のようだった。 

後ろを振り向くとさっきの黒猫がいて、その黒猫は喋ったり、ここを地球とは別世界の天球(てんきゅう)とか言ったり訳が分からない……。

さっき路地裏に現れた黒いナニかは混沌(カオス)と言って、この黒猫は混沌とは違い、この天球と地球を渡ることができる可愛らしい黒猫マルと言うらしい。

俺にはさっぱりだが現実で起きてしまっている以上、俺はこのマルの言うことを信じるしかなかった。

マルは一通り説明し終えると、行くぞと言うと俺の有無も聞かず走り出し小柄で黒いのはどんどん進んでいった。

どこに行くかもわからない俺だがここにいても仕方がないし俺はマルの後を追うことにした……。

◆第一章 コジャラシ村◆

 今日は朝からどれくらい走っただろうか……。アスファルトを走り、目が覚めたら訳も分からないまま緑と地面の上を走っている。

「なぁ、マル〜。まだ目的地に着かないの?」

俺がマルと呼んだのは首に赤いリボンをつけた小柄で金色の瞳をもつ黒猫だ。

『アンタ、もう疲れたのかい? 後、ちょっとだから頑張りな』

 猫に励まされている今の俺っていったい……。そんなことを考えながら、俺は辺り一面を見渡しながら走っていた。

どこまでも続く緑、外国にきたかのような山々、川も流れていて水は透明でとても自然豊かだった。

地球の田舎にもきっとここまで綺麗なとこはないよな。

『よし、そろそろ見えてきたよ! 目の前に大きな木が見える村が僕の生まれ故郷コジャラシ村にゃ!』

「ん?」

前をむくとそこには、真ん中に大きな木がある村が見えてきた。入り口には大きな木の門があり、コジャラシ村と日本語で書かれていた。

どうやらこの世界でも同じ言葉は通じるみたいだ。

「おぉ、やっとついたぁ!」

 俺は息をきらしながら、村の門の前まで行くと立ち止まり少し息を整えた。

そして俺はさっきのマルの言葉に違和感を感じていた。

「なぁ、マルって語尾に、にゃを付けたり僕って言ったりしたっけ?」

『んにゃ!?』

マルはどこから出したか分からない声と共に、慌てて恥ずかしそうに下を向いていた。

「マルってアンタとか上から目線な話し方をしているけど、実際は今のが素なんじゃ……」

『……何のことかわからない』

 マルは顔を上げたが目はこちらを合わそうとせずにどこか別のとこを見ながら話ししていた。意外と恥ずかしがり屋さんなんだな。

俺たちがそんなやり取りをしていると、村の奥の方から腰の曲がった二足歩行する年老いた感じの猫が歩いてきた。

『おぉ! マル二年ぶりじゃにゃ!』

『ミケ村長! お久しぶりにゃ!』

この腰が曲がった猫はこの村の村長みたいだ。右手には変わった形の杖も持っていていかにも村長という感じだった。

『そっちの人間は?』

「あっ、黒沢 昂と言います」

なんで、俺は猫相手に敬語を使っているんだろ……。心の中で自問自答をしていると、

『ん? マル! もしやこの人間は地球の人間か!?』

『そうですけど、どうかしましたか村長?』

ミケ村長の様子が一変した。

『マルよ。この村で毎年この時期に、コジャラシ祭があるのは知っているにゃ?』

『もちろんだにゃ! コジャラシ村の御神木様の前で踊ったり騒いだりするお祭りだにゃ』

こっちの世界にも地球と同じ行ように祭があるんだな。

『そうじゃ。その御神木様からこんな御告げがあったのじゃ』

〜別世界ノモノ正シキ闇ヲ用イテコノ世ノ混沌ヲウチチハラワン〜

『別世界ノモノ? コイツは偶々心優しきこのマル様が混沌から助けてあげた只の人間だ』

話を聞いた長老は、残念そうな顔をして

『そうか……地球の者よ。この世界は混沌に侵食されつつあるから、早いうちに帰りなさい』

「あぁ、帰りなさいって言われても、俺も帰るに帰り方がわからないんですよ……」

『それなら、マル。今日は遅いからお前の家に泊めてあげて、明日にでもお前の力で返してあげなさい』

「えっ! マルに頼めば帰れるの? それならマル明日お願いするよ!」 

マルは少し残念そうな顔をしながらも、長老や俺の問いかけに対して

『わかりました』

と、言ったが、俺には淋しそうな声に聞こえた

◆◆

 マルの家に向かい、夕食やお風呂をいただいた。食事は魚料理が多いがトウモロコシなど別の食べ物も調理して食べたりしていた。   

ただ、電気はないから本当にRPGの世界の民家のような感じだった。この村は猫しか住んでいなくて、猫が人間のように生きているところだ。

 俺とマルは眠りにつこうと、布団に入ることにした。マルの家には何故か昔からベッドが二つあったらしく、俺はそこを使って眠りにつくことになった。

布団に入り俺は窓の外を見た。星が沢山輝き夜空はとても綺麗だった。ただ、月が二つあるという違和感を除けばだが……。

「なぁ、マル。俺本当に別世界にいるんだな」

『……』

寝てしまったのかマルから返事はなかった。

「……お前って変な奴だよな。偉そうな猫だと思ったら、子供っぽいとこもあるし、帰るってなったらあんな声するし……」

『……』

「多分帰る手段がなければ、お前とここで過ごすのも面白かったのかな……って、寝ている猫に何を言っているんだろうな」

俺は段々と馬鹿らしくなってきて、意識は暗闇に落ちていった。

意識が遠のいていく中、マルの方からすすり泣くような声が聞こ

えた気がしたが俺の意識はそこで途絶えてしまった。

◆第二章 加速し始めた瞳◆

 窓から差し込む光によって、俺は目が覚めた。マルの方を見るとマルの姿はなく、外の方が騒がしかった。

外を覗いてみると村中の猫が何かの準備をしていて、その中にマルの姿もあり俺も外へでることにした。

 外に出ると俺に気づいたのか、マルはすぐにこちらへやってきた。

「おはよーマル」

『さぁ、アンタも帰りたいなら手伝いな! コジャラシ祭の準備だよ!』

 昨日とは違い、出会ったばかりの時のようなマルになっていた。だけど、どこか淋しそうな感じがする。

「お、おう。取りあえず何から手伝えばいい?」

 俺はマルや村猫の指示に従い、コジャラシ祭の準備をした。

お昼を過ぎた頃だろうか。朝から何も食べてない俺は腹ペコになり昼食をもらうことになった。

「いただきます!」

『食べ終わったら午後からも働いてもうからね!』

「へーい」

そんなやりとりをしながら、俺はこの時間にとても充実さと楽しさを感じていた。

 ここでのマルとの生活は、地球では感じることができなかったものが感じられたからだ。

こういうのも悪くないな。俺は小さな声で呟いた

 その時、入口の門の方が騒がしくなった。気になった俺とマルは門の方へ向かった。

 そこには、虎が二足歩行して、体に鎧をまとい手には長槍のようなものを持っていて、まさに兵士のようだった。そして、その後ろから一人の男が現れた。

「よう。コジャラシ村の猫ども」

 その男は、体格がとてもよく手には斧を持っていた。RPGに出てくる敵そのまんまだった。

 すると、ミケ村長が前にで

『お前はガイアス!? もうこの村に来ないとは約束したじゃろ!』

「あぁん? はて、そんな約束したっけな?」

ガイアスと呼ばれる男は汚い笑いをしながら、ミケ村長を蹴り飛ばした。

ドスッ。

耳に入る嫌な音。

こんな音をゲーム以外で聞くことになるとは思わなかった。ミケ村長はとても苦しそうにしながらも、立ち上がりガイアスの元へ再び歩み始めた。

『お前ら混沌軍がこの村を荒らすせいでワシらの食べ物などは全部持って行かれた……。それを避けるために月一回お前らに仕送りをして、この村を訪れないと約束したはずじゃ!』

「……」

 その言葉をガイアスは最後まで静かに聞いていた。そして、全て聞き終えると急に笑い出し持っていた斧を投げ飛ばす。

ガスッ!

 投げ飛ばされた斧は壁に刺さっり、幸いそこには誰もいなかった為、怪我する者はいなかった。いや、怪我ではすまなかっただろ

「お前らのそういう弱っちい態度が気に入らねえんだよ! 弱者は強者によって潰される。それでいいんだよ!」

 その言葉とともに、ガイアスの体から黒いナニかが現れた。

「なっ、それは混沌!?」

 思わず声を出してしまっていた。それに気づいたガイアスは刺さった斧を拾い俺の方へと近づいてきた。

「お前、地球の人間か。ここで何をしている?」

「……」

俺は恐怖のあまり声もでなかった。足が震え頭の中はいっぱいで何も考えられない。早く答えないと……答えないと殺されてしまう。

「おい、聞こえてんだろあぁ!?」

「ひぃい」

あまりの恐怖に、俺は情けない声を出して今にも気をうしないそうだった。

その時、俺の目の前に小さな黒いのが現れた。

『もうやめるにゃ! コイツは関係ないだろ!』

その小さな体は、大きなガイアスに挑む勇敢な戦士のように見えた。よく見ると体はとても震えていた。だが、その背中はとても大きなものに見えた。

「マル……」

「うっせぇんだよクソ猫!」

ドスッ

 再び聞いてしまった鈍い音。そして、マルはボールのように蹴り飛ばされてしまった。

「マルッ!」

「お前もうるせぇ!」

さっきまで聞こえていた音が、今度は痛みとともに俺の体に響いた。

「うっ」

 俺は恐怖と痛みで、色んな感情に襲われた。

痛い……。

怖い……。

俺はここで死んでしまうのか?

こんなことになるなら、路地裏に行かなきゃよかった。

こんなことになるなら、駄々こねてもっと早く帰ればよかった。

こんなことになるなら、マルに出会わなければ……。

俺は自分の生の終わりを感じていた。

「人間。お前からこの俺様の混沌で喰ってやるよ」

ガイアスは先ほど出現させた混沌を斧に纏った。すると、斧は形を変え鎌のような形に変化した

「……」

 俺はこの時、武器が変わったことなどどうでもよかった。結局俺の死はここで決まってしまっているんだから。

「混沌鎌 ソウル=イーターの餌食にしてやるよ」

汚い笑みとともに、その禍々しい刃は俺の血肉を欲しているように見えた。

 ガイアスが鎌を構え斬りかかる準備をしていた。 

 正直諦めていた俺はそれを受け入れようと瞳を閉じていた。

 ガイアスが力を込めて鎌を振りかざしたその時だった。

『ノボル!』

俺の目の前に黒い小さな黒い……。

そう、マルが俺を庇うため飛び出てきた。

 ガイアスの鎌はマルを捉え、マルは赤い鮮血を飛ばしながら地に落ちていった。

「マ……ル?」

血を出して動かない。

俺をかばって……こんな小さな猫が……。

熱い。

眼の奥から何かが湧いてくる。

ガイアスが憎い。

憎しみの感情が俺の体を支配しようとする。

だが、それ以上に俺の中にはマルがいた

マルが見せてくれた勇気。

マルに助けてもらったこの命……。

マル……今俺いっぱい怖い思いしたけど、お前に会えたことはとても嬉しかったって今はっきり分かるよ。

俺の視界は少しぼやけていた。それを拭い取り俺は立ち上がった。

「……ガイアス。闇に喰われるのはテメェの方だ」

言葉とともに、俺はガイアスの左手を瞳で捉え、その瞬間ガイアスの左手を漆黒の闇が包んだ。

「なっ!? どこから湧いてきた! しかもなんだこの闇! 俺の知ってる闇じゃない!」

急なことに驚いているガイアスに対して俺は冷たい眼でガイアスを見据えていた。

「マルが教えてくれたもの……これが正しき闇の力だ。お前の混沌を全て消させてもらう」

「ふざけるな! お前もさっきの猫かの仇討ちで俺のことが憎くて憎くて仕方がないからこうしているんだろ! 何が正しき闇の力だ! お前にもあるじゃないか俺と同じ邪悪な混沌がよ!」

ガイアスは闇に飲み込まれながら、苦しそうに大声をあげていた。

「マルは確かに俺を庇って倒れた。だからこそ俺は気づかされた」

「じゃあ、何なんだお前のその力は! 憎しみじゃないならなんなんだ!」

「……漆黒(ブラック)(カイ)()

俺はそう言い終えると、ガイアスに眼を合わせた。

長い前髪から、うっすらと見えたその瞳。それを見たガイアスは酷く震え上がった。

「何なんだよその眼はよ……」

俺の眼はさっきまでの黒い瞳から朱い瞳に変わっていたからだ。

「この眼で捉えた混沌は、俺の意思が続く限り俺の闇に喰われ続ける。もちろん、飼い主であるお前もだ」

ガイアスを覆っていた闇を強くし、俺は左手を消し去った。

「クッ、なんて力だよ……」

「ガイアス。眼で語る戦いはここまでだ。とどめにはこいつをくれてやる」

 俺は闇を両手に集め、それを剣へと形態変化させた。

何故か俺は全てを知っていた。漆黒ノ眼の使い方、効果を。だが、今はそんなことどうでもいい。

形態変化が終わり、黒い二本の剣を投影した。

万死(ヴィジョン)()(オブ)()幻影(スケィス)……」

黒い二本の剣は形こそ普通だが、闇のオーラーをはなっていた。

それを見たガイアスは

「す、すまねぇ! 約束は守る! もうこの村を襲ったりはしないから許しくれ!」

「……」

「頼む! 同じ人間だろ?」

「あぁ、そうだ。だから、お前の混沌……見逃すわけにはいかないんだ」

刹那 

一瞬で踏み込み、ガイアスとの間合いを詰め俺は全てを斬り裂いた。

◆プロローグU はじまりのファンタジア◆

 あれから、ガイアスを失った混沌軍はすぐさま撤退していった。

村猫に怪我はなく、みんな無事だった。マルを除いて……。 

俺はマルが倒れているところへ、歩み寄っていきマルを抱えた。

「ありがとうな。お前のおかげで救われたんだ。俺もこの村も」

その時、マルの体がピクッと動き、マルの体から漆黒の闇が現れ体を覆った。

そして、闇が徐々に消えていくと、マルは目覚めていた。

『んにゃ? ノボル元気かにゃ?』

マルは……生きていた。というよりも蘇った?

どっちでもいい。

マルは今、ここにいる。

「マル!」

俺はマルを強く抱きしめた。

良かった。

本当に良かった。

『そんなに強くされと痛いだろうがぁ!』

「ご、ごめん」

そういえば、初めて会ったときも、こんな感じだっけな。

『でも、びっくりしたよ。まさかノボルがあいつらを倒したとは思わなかったよ』

「そうだな。俺自身、ちゃんとした分かってないけど、この眼が開眼した時、色んな知識が頭に流れてきて、だいたいは分かったよ。って、なんで知ってるんだ俺が倒したって?」

『ノボルの闇からみせてもらってたにゃ』

「そんなことが、できてたんだな……」

俺自身いまだにあの時、何が起きて開眼したのか分からない。俺はただの地球の人間で親も普通のサラリーマン。何もないはずなんだけどな。

『おぉ、ミケ! お前生きていたのかにゃ!』

 声があった方へと振り向くと、そこにはミケ村長がいた。

『詳しくは分からないけど、そうみたいにゃ』

「ミケ村長。あの……」

『分かっておるよ! 帰るのだにゃ? 村を救ってくれて本当にありがとうにゃ!』

そのことを聞いて、マルが淋しそうな顔をした。

「一度帰っても、またこれますよね?」

その問いにマルが答えた

『それはできない、人間がこっちへ来れるのは一度だけ。一度戻ると二度とこれない』

「そうなのか……」

『さぁ、用意しろノボル。さっさと帰りな』

「……」

強い言葉を使っているがマルの顔はとても淋しそうな顔をしていた。

 俺は少し黙りこんで、そしてある答えを見つけた

「ミケ村長。正シキ闇ノ使イ手がこの世界を救うのでしたよね? その言い伝えの人物、俺かもしれないんです」

『なっ! ……まぁ、確かにあの時のお前さんの闇は混沌どもとは違い、マルと同じ闇だったにゃ』

「俺、マルと一緒に冒険をしたいです」

そのことに、マルはとても驚いていた。急だし無理もないか。

『んにゃ!? お前帰らなくていいのかにゃ!?』

「まだあんなのいるのに、帰るのも味気悪いし……。それにお前とまだ一緒にいたい!」

『……バカな人間だな。仕方ない! この可愛いマル様が一緒についていってやるにゃ!』

マルは初めこそ強い言葉をだったが、顔はどこか嬉しそうだった。

「うん! ありがとうマル」

『どうやら決まったようじゃな。さぁ、二人とも! お前さんたちの冒険を祝うのも合わせて、これよりコジャラシ祭にゃ!』

すると、外が急に騒がしくなり、外に出てみると皆ネコジャラシを持って踊って騒いでいて中には酒を飲みまくっている猫もいた。

コジャラシって、そういうことか。そして、お酒はおそらくこの匂い的にマタタビ……俺は心の中でクスッと笑うと

「ほらマル。お前も取ってこいよ!」

『もちろんだにゃ!』

マルはネコジャラシを取ってきて俺に渡してきた。

「よし、いくぞ!」

 こうして、俺たちはマタタビの匂いに包まれながら、一日を過ごした。

 一日中遊んだ俺とマルは、そのまま寝てしまい朝を迎えた。

朝目覚めると、俺は鏡の前で自分の瞳を見た。いつもと同じ黒。

あの眼は、混沌を見つけた時に発動するみたいだ。

それは、俺の中に急に流れてきた知識が告げていた。

 顔を洗いご飯を食べ、俺はマルとともに外へ出た。

門までいくと、村猫みんなが集まってくれて村長が代表で前へ出てきた

『村を救ってくれてありがとうじゃにゃ。二人の英雄』

俺たちは軽く一礼をして

「それでは」

『いってきます』

門を出るときの一歩はいつもより重たかった。今ならまだこの旅をやめることができる。

 でもやめたくない。

俺はこの小さな黒猫マルと一緒にこの世界を救いたい。

そして、この眼の謎や知識が入ってきたこと、まだ分からないことがいっぱいある。それを俺はコイツと見つけていきたい。

門を出て一息。

『さぁ、いくにゃ!』

マルはあの時のように急に走り出した。

「行くってどこだよ! って、また聞こえてなさそうだし……」

俺は一人クスッと笑い、マルを追いかけることにした。

背中を押してくれた風が、とても気持ちよく俺とマルをどこまでも運んでくれる気がした。

◆◆

今で二年経っただろうか……。体験談は今回ここで終わってしまうが、いつかどこかで、この物語の続きを書くかもしれない。

俺と黒猫のファンタジアはまだ続いている。

                          END

 

                      

inserted by FC2 system